それから1年後。
ふぎゃぁ、ふぎゃあと泣き叫ぶ声が大奥には響き渡り、1年前からは考えられないほど賑やかな場所へと変わっていた。
「うわ、泣いちゃった。ルルーシュ、助けてよ」
「お前の抱き方は乱暴なんだ。ほら、貸してみろ」
スザクの手から抱き上げ、軽く体を揺すってやると、赤ん坊は簡単に泣きやんで。
となりで、感心したようにスザクが声をあげていた。
もうすぐ2ヶ月になる愛息子はルルーシュの腕の中で大きな紫色の瞳をぱちくりとしていて。
あー、だの、うー、だの、声にならない声を上げている。
「ほら、ビャッコ。父さんだよー」
カラカラ、とでんでん太鼓を振るスザクはすっかり子供にお熱のようで、思わずルルーシュは笑った。
少し小さかったけれど、健康で産まれてきてくれたこの子はとても優秀だと思う。
初産の、体力の無い母に合わせるように楽なように産まれてきてくれたのだから。
そう言ったら、スザクは親ばかだよ、と笑っていたけれど。
産まれてきてから公務をさっさと切り上げて極力大奥に居座るスザクの方がよっぽど親ばかだ。
産まれた瞬間、まだ顔つきもはっきり分からない真っ赤な赤子を見て僕そっくりと言った。
まだ顔つきなんて分からないと言っても、いいや、僕似だと譲らなかった。
まぁ、本当にスザクそっくりなんだけれど。
ルルーシュの物を受け継いだのは紫色の瞳とさらさらな髪質。
母親の欲目を抜きにしても将来男前になりそうな子だ。
そんなことを言えば、スザクがまた図に乗りそうなので嫌でも言わないが。
「そうだ、ルルーシュ。相談したいことがあったんだ」
ふいに言われて、スザクを見ると、スザクはごそごそと地図を取り出して、畳に広げた。
先程の親ばかはどこへ行ったのか、すっかり仕事モードで地図の一点を指差した。
「治水工事をしたいんだけど、優先順位を聞こうと思って」
スザクはさらさらと現在の状況と、理想の姿と、民たちの要望をルルーシュに伝え。
ルルーシュは聞いた情報と地図を睨みつけて、より良い方法を提案する。
難しい内容にむずむずとした息子がルルーシュの腕の中で声を上げるその様子は何とも微笑ましくて。
声をあげるその度にスザクの大きな手がさらさらの、まだ少ない髪を撫でた。
仕事は仕事。けれど、仕事の合間も息子を気にするその仕草はルルーシュにとって理想のお父さんで。
頑張ったかいがあったな、と思いながら、そっとスザクの肩に寄り添う。
少し空気の読めないスザクはきょとんとしながら仕事を進めようとするのだけれど。
広げていた地図を強制的にたたんで、見上げると、仕方ないなと翡翠が笑った。
「まだ仕事の話したかったのにな」
「そんなもの、後でいくらでも聞いてやる。それに治水の話はもう決まっただろ?」
「他にもまだ相談したいことが」
「お前は真面目すぎる。少しは気を抜け。ここは俺の場所だ。俺の言うことを聞くのが筋だろう?」
休憩だ、と笑って相手の頬を撫でると、そっと額にスザクの唇が降って来る。
ルルーシュには敵わないなぁ、なんて言いながら。
「じゃあ、休憩の手始めに…ビャッコが泣かない抱き方、教えてくれる?」
ひょい、とルルーシュの腕から取り上げるようにビャッコを抱くスザクの腕はやっぱりちょっと乱暴で。
すぐに目尻に涙を溜めるビャッコを見てまた笑う。
スザクは反対にしまったとばかりにまたオロオロとするのだけれど。
「ビャッコ、男の子は泣いちゃだめなんだ。ほら、怖くないから!」
赤子に何を言い聞かせようとしているのか。
けれど、必死であやそうとするスザクが可愛くて、一国の将軍になんて見えなくて。
しばらく放っておくことに決めた。
どうせすぐ、スザクが泣きついてくるに決まってる。
ルルーシュに言わせれば、ビャッコよりスザクの方が泣き虫だ。
初めてルルーシュを抱いて泣いて、妊娠したと分かって泣いて、産まれて泣いて、家族が出来たと泣いて。
きっと『お父さん』と呼ばれてまた泣くのだろう。
ビャッコが立ち上がった時も泣くのだろう。
想像すると、何とも幸せで。
フフッ、と笑いを思わず零すとスザクに不満げに睨まれた。
「そんなに僕がオロオロしてるの…楽しい?」
「あ、いや、確かに楽しいが…そんなに怒るな」
子供のようなスザクの肩に手を添えると、僅かに張っていて。
「あぁ、こんなに力を入れているから駄目なんだ。ほら、力を抜いて抱いてみろ」
「こう…?」
肩の力を抜いて、包み込むように抱くと、腕の中の赤子は安心したようにへにゃりと笑った。
まだ目尻にほんのり涙が浮かんでいたけれど。
それを見て、スザクの顔がぱぁ、と明るくなる。
「ルルーシュ!!笑った!ビャッコ抱かれて笑ってくれたよ!!」
「あぁ、はいはい。良かったな」
「ルルーシュのおかげかな。有難う」
そっと口付けられて、ルルーシュは思わず口元を手で覆った。
あぁ、本当に。
幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
ねぇ、知ってる?お城の将軍様と御台様の噂。
勿論。仲睦まじく、絵に描いたようなおしどり夫婦なんだよね?
それだけじゃない。何でも御台様の熱意が将軍様の凍てついた心を溶かしたんだとか。
しかも今では公私共に最高のパートナー。そこまで出来る恋って素敵!
ずっと窓の外を見て微笑んでいる姉に、ナナリーは不思議そうに首を傾げた。
「ユフィお姉様?にこにこしてどうしたんですか?」
あまりに気になって問いかけると、ユーフェミアの口から素敵な恋物語を聞かされて。
初めて聞いた話なのに、初めてな気がしないのは…。
「ルルーシュお姉様のお話みたいですね」
「えぇ、だって今の将軍様と御台様のお話だもの」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、ユーフェミアは唇に人差し指を立てて内緒ね、と笑う。
「街では、お姉様みたいに意中の殿方を情熱的に射止めるのが主流なんですって」
「まぁ」
2人で顔を見合わせてふふふ、と笑う。
あんな苦難を乗り越えた2人なら、これからも2人で乗り越えられるだろうから。
「「将軍様と御台様に幸あれ」」
2人で手を合わせて神様にお願いする。
これからもずっと幸せでありますように、と。
「あ、そうだ。ルルーシュ。2人目は女の子産んでね?」
「はぁあああ??まだ早い!!」
「えぇ、いいじゃない。今からでも子作りしようよ」
「ちょっ!!待て!!スザ…っ」
2人目ができるのも、意外と早いかもしれない。
End
−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
完結です。お付き合い有難う御座いました!!
途中まで書いていた裏を結局朝ちゅんどころか1年後とかにしてしまいまして、裏を期待して下さった方には申し訳ない。
けど、これに裏は必要ない…と思いたいです。
実は産まれた時の話とか、妊娠してる時の話とか、波乱みたいなのはもっと用意していたのですが。
あとユフィの初恋話とか、2人目の姫宮は父上大好きとか、スザクが跡継ぎを作るのを放棄した詳しい理由とか。
全然かきたりねぇえええええっ!!!って感じではあるのですが、完結です。
けど、私は気まぐれですので。
機会と気力があれば…続編も…書…けたらいいなぁ(涙)
でも、書いても喜ぶ人はいない気は多大にする(笑)
応援拍手等ありがとうございました。
今更ですが、改めて御礼を言わせて下さいませ。
中には更新する度に感想やメール下さる方なんかもいて…「愛されてるなぁ、大奥!」と感涙していました。
まだまだ色々な設定の妄想が広がるスザルル♀ワールド。
凄いですね、スザルルっ!(何)