それからというもの、ちょくちょくとスザクはルルーシュに会いに来るようになった。
相変わらず床に呼ばれることはなかったけれども、奥に来ると、まず他の側室達を差し置いてルルーシュに会いにきた。
それは確かにルルーシュが仕向けたことであるし、スザクもそれだけルルーシュに気を向けるようになったということ。
喜ぶべきことのはずなのだが。
だが、スザクに笑顔を向けられるたび、罪悪感を感じる自分がいることに、気付き始めていた。
ひたすらに気付かないフリをして、相手をする毎日が続く。
「よくやるな。あんな甘ったれなオトノサマの相手なんて」
「あいつに気に入られるのがココで生きていくには一番簡単だからな」
C.Cはよく言う、と鼻で笑う。
「何だ?」
苛立ちをこめて言うと、C.Cは悪びれもせずクスリと笑って肩をすくめた。
「いや?あの男も可哀相だと思っただけだよ。こんな女に捕まって…道具にされて」
「可哀相…?」
ルルーシュはくる、と体を振り向かせると妖艶な笑みを浮かべて見せた。
「忘れるなよ、C.C。可哀相なのは無理やり縁組された俺だ」
俺の膝は枕じゃないぞ?
ルルーシュは一件以来、度々こうして膝を貸す羽目になっていた。
静かな空間と膝にある僅かな重みと温もりは嫌いじゃなかった。
「…ごめん…なさい」
ぽつりと呟かれた言葉に思わず視線を落とすと、苦しそうなスザクの顔。
「…スザ…ク…?」
スザクの瞳からはぼろぼろと涙があふれ、眉間の皺を濃くしている。
いつも笑ってばかりで、こんなに声を殺して泣くような苦しそうな泣き顔は初めてで。
目尻に溜まった涙を、指先で拭っても拭っても溢れ出る涙。
「ごめ…父さん…みんな…」
「スザク…お前…何を抱えてるんだ?」
最近ずっと疲れたような顔をしているのは知っていた。
だから、眠れるときに寝かせてやりたいと、起こすことはしたくない。
ルルーシュは優しくふわふわの髪を撫で付けると、そっと顔を寄せた。
「大丈夫だ、スザク。こんなに謝っているスザクを、父上は許してくださるよ」
優しい口調で囁き、何度も何度も撫でる。
そうしているうちにスザクの息はだんだん穏やかになっていき。
いつしか安らかな寝息に変わっていた。
そのことに思わずほっと息をついている自分に気がつくと、はっとして思わず顔を反らした。
「これじゃあまるで絆されたみたいじゃないか。この犬に」
ぽつり、と呟くと大きなため息をついて庭を見渡す。
愛、とか、恋、とか、友情、とか。そんなもの必要じゃない。
スザクは俺の憎き敵で、利用する道具で、全てが終わったら使い捨てるつもりのゴミで。
情を抱く必要など全く無いのだから…と、ルルーシュは瞳を閉じた。
冷たい心を胸に抱いて。
目を覚ました時、枕にしていた暖かいものに懐かしさを感じた。
幼い頃、母を感じた、あの暖かさに重い瞼が再び下がってくる。
小さく身じろぐと、瞳を開いて、天井を見上げようと、寝返りを打つ。
薄汚れた天井を見つめるつもりだったが、思いもかけない色が視界に入り、思わず目を細めた。
寝ぼけていた視界がクリアになっていき、白磁の肌とアメジストの瞳がはっきりと輪郭を持ち始める。
そ、と手を伸ばすと、柔らかな頬の感触がはっきりと手のひらに伝わる。
「…スザク?」
わかってた。
この声は僕を絡め取る罠だってことくらい。
わかってた。
この綺麗なアメジストの瞳は僕を見ていないことくらい。
わかってた。
心は僕を憎んでるってことくらい。
わかってた。
君は僕を
道具トシテシカ見テイナイッテコトクライ…
だって君は被害者だから。
君だけじゃない。
カレンだって神楽耶だって、他の側室達だって。
好きでここに連れてこられたのは一人だっていない。
親の命令で…家が危ないから…名誉のため…
だから子を孕もうと必死で媚を売ってくるのだ。
それでも皆をここへとどまらせたのは僕自身の我侭だ。
ネェ、ルルーシュ。
ボクハ…今ノ侭ジャダメナンダ、キット。
不思議そうに見つめてくるアメジストを再び真っ直ぐ見据えると、スザクは堅く閉じていた口を開いた。
「ルルーシュ。里へ帰って?」
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