その日はとにかく朝からばたばたと忙しかった。
C.Cや、他の侍女達が忙しそうに走り回る中、ルルーシュだけがただ一人取り残されたように座りこみ。
何かを手伝おうかと申し出た瞬間、面倒だから手を出すな、と全員から断られてしまった。
それにしても、何をこんなに忙しそうにしているのだろう、とルルーシュはどこともなしに見つめた。
元から物がすくない部屋が更に片付いていっている。
更に中身が詰められた桐箱が部屋の外へ運ばれていくのを見て、ふとルルーシュは首を傾げた。
これではまるで引越しみたいだ。
「…なぁ、C.C…誰かが引っ越すのか?」
C.Cはルルーシュを振り返ると意味ありげな笑みを浮かべていた。
「誰かって、ルルーシュ姫の里下りだろう?」
「はぁああああっ!?」
ルルーシュがぼうっとしている間にも、どんどん部屋の中はがらん、と殺風景になっていく。
何度か止めさせようと言ってみたけれど、侍女達は「上様の命令ですから」と苦笑するばかりで。
聞いてくれなくて。
というか、何故俺に一言も無く里帰りを決めてしまったのか。
そう、その場にいないスザクに苛立ちばかりがこみあげる。
やっと自分の思いを―なんとなくではあっても―理解したのに。
「会いたいのに…」
「誰に?」
「誰って…わかりきってるだろ、そんなこ…うわぁああああっ」
慌てて飛び退くとさらっと、無表情で佇んでいるスザクが、声が大きい、と耳をふさいだ。
「おまっ、おまえっ…何でここに!?」
予期していなかった遭遇に思わず心臓がばくばくと高鳴る。
なんとか心臓を落ち着かせて深呼吸すると立ったままのスザクを見上げた。
言わなきゃいけないことがあったのだと、決意をして。
「お前、何で勝手に俺の里帰りを取り付けたんだ?」
「言ったはずだよ。帰れって」
「あぁ。でも、お前は勝手にしろ、と言った」
「その事情が君の父上の手紙によって変わっただけだよ。娘を返せというから、返すだけ」
スザクの瞳は、ここに通っていた頃からは考えられないほど凍て付いていて、背筋が思わずゾクリと粟立つ。
しばらく間を置いて、次に言われた言葉に、ルルーシュの頭の中は真っ白になっていた。
ぱんっ!
渇いた音が空気に浸透する。
じん、と痛む手をルルーシュは呆然と見詰めていた。
やってしまった。
将軍である男を思いっきり叩いてしまった。
スザクの頬には綺麗な真っ赤な紅葉がついていて。
けれど、後悔は全く感じないほどルルーシュの頭の中は怒りと屈辱でいっぱいだった。
スザクが、小さく殴られた箇所を押さえて溜息をついている。
「お前が、お前があんなことを言ったから…!」
「そんなにショックだった?」
『どうせ道具なんだから』
再び口にされた言葉に思わず手が伸びる。
今度はそれをスザクの手に塞がれたのを見て、ルルーシュは思わず唇を噛んだ。
最悪だ。こんな男。
どうして少しでも好きになったかもしれないなんて思ったのだろう。
「お前なんか、大嫌いだ!!!」
「そう、ならよかったね。もう僕にもう会うことなんてないし」
最後までスザクは無表情で、冷たい瞳にルルーシュを映して帰っていった。
「最悪だ。あいつ…」
ぼろぼろと涙が次から次へと溢れ出る。
失恋とか、そんな生易しいものじゃない。
道具、という単語が、あの優しいスザクから出てきたことが、何よりショックだった。
ルルーシュの心の中は、ぐちゃぐちゃで、もう何がなんだかわからなくて。
その日は泣き疲れてそのまま泥のように眠った。
次の日、まだ整理のつかない心と頭をひきずるようにして、ルルーシュは早朝、大奥という場を後にした。
to be continu...