ルルーシュが希望を伝えてから、スザクは度々執務を奥へと持ち込む事があった。
それをルルーシュの目の前に広げて、色々説明しながら―時にはルルーシュに教授されながら―執務を続ける光景は見慣れたものになってきていた。
いつか、右腕になりたいと言ったからと言ってそんなに簡単に仕事を人に見せても良いのかと聞くと不思議そうに首を傾げられた。
君は僕を助けてくれるんだろ?それとも裏切るの?と。
もちろんそんなつもりは全く無いし、スザクと生きる覚悟を決めたから帰ってきたのだ。
きっぱりと否定すると、スザクはだったらいいじゃない、と気にせず仕事をこなしていた。
スザクは毎日のように通ってくれて、以前のような寂しさは全く感じなかった。
それどころか、スザクがいる空間は緩やかな時間が流れていて、心地よく。
気持ちいい。心地いい。
「スザク…」
名前を呼べば、スザクは首を傾げながらもルルーシュの相手をして。
あぁ、幸せかもしれない、とルルーシュはほう、と息をついた。
微温湯のような幸せかもしれないけれど、帰ってきて本当に良かった、と小さく呟いた。
大袈裟だとスザクには笑われてしまったけれど。
この幸せは自分が分かればいいと瞳を伏せた。



「俺も随分信頼されたものだな」
「一度里帰りしたのに帰ってきたのは君だけだから。少し…嬉しかった」
ぽつりと呟かれたスザクの言葉は彼女を喜ばせるには十分すぎる破壊力で。
思わずスザクの首に腕を回して抱き締めた。
てっきり振り払われるかと思ったが、スザクは重いと呟いただけで書類に目を通していた。
「スザク。俺に仕事、教えてくれるか?」
「そうだね。教えてあげる。将来の右腕のために」
微笑むスザクの穏やかな表情に思わず胸がドキリと波打つ。
かわいい、と思わず呟いたが、本人には聞こえなかったのか、きょとんとしながら書類を広げていた。
すっ、とスザクの書類をなぞる指に手を添えるとルルーシュは真剣な瞳でスザクを見つめた。
「スザク、仕事以外でもお前を支える存在になりたい。お前が…その…」
大事なところでいつも口ごもってしまう。
照ればかりが先行して、話を続けられない。
けれど、ここで言わなければまた言い損ねる気がして、ルルーシュは口を開く。
「…俺は、す、スザクが!!」
「好きだよ。ルルーシュ」
にっこり。
笑顔とともにあっさりと先に告白されてしまうと思わずぽかん、としながらスザクを見上げる。
言葉を発した本人は何事も無かったかのようにさらっと書類に目を通していて。
そのさり気なさそうな様子に思わず聞き間違いかと疑ってしまう。
「あ、あの、スザク?今、何て?」
「だから、好きだよ?ルルーシュのこと」
再び放たれた言葉は聞き間違いでも何でもなくて、ルルーシュの頬が思わず赤く染まる。
「じゃあ、その!俺とっ…」
言葉を発しようとして、はた、と止まる。
待て、こういう場合何と言うべきだ?
既に結婚している訳だから、今更『付き合ってくれ』はおかしいだろう?
ぐるぐるぐると頭の中を様々な言葉が駆け巡る。
スザクはきょとんとしたままルルーシュを見ていて。
「お、俺と…俺と一緒になってくれ!!」
何かが違うけれどニュアンス的に問題はないはずだ!とスザクに視線を移すとスザクは腹を抱えて笑っていて。
失礼じゃないか、と憤る気持ちと馬鹿にされたんじゃないかという怒りがこみ上げる。
「す、スザク!!」
「ごめん、ルルーシュ頭いいのに、変なこと言うから、ついっ…」
「なっ、変な事とはなんだ!!」
どんなにルルーシュが怒ってみせても、スザクはずっと笑っていて。
「絶対許してやらない!最悪だ!!」
ふいっとルルーシュが顔を反らすとスザクに後ろから抱き締められた。
ご機嫌取りだとは分かっていても綻びそうになる口元を慌てて引き締める。
いけない。今は怒っているのだから。
「ルルーシュ。拗ねないでよ」
「許さないと言っただろ」
「るるー…」
もっと困ればいい。俺が散々お前に振り回されたように。
内心、そんな思いを込めてひたすら無視を決め込んでいたが、スザクの言葉を聞いた瞬間、頬が染まった。



「僕の子供、産んでくれる?」


to be continu...