平和だ。
ルルーシュは実家の、賑やかな喧騒を聞いて思わずほぅ、と息をついた。
数日前、家に帰ってきてからまずルルーシュを迎えたのはたくさんの兄弟達の歓迎だった。
特にすぐ下の妹達の歓迎は大袈裟なほどで。
同母妹であるナナリーは泣いて帰還を喜んでくれたし、異母妹であるユーフェミアは帰って早々抱きついてきた。
その様子に思わず帰ってきたのだな、とじん、と実感できた。
相変わらず父親が顔を見せることは無かったけれど。
話を聞くと、ルルーシュの帰還は兄、シュナイゼルと父との相談の下、文を出した、ということで。
素直にその心配を受け取れない自分自身の心に思わず嫌気が差した。



「ねぇ、お姉様。大奥は綺麗な処なんでしょう?どうでしたか?」
「将軍ってどんな方だったの?」
すっかり妹の質問攻めにあっていたルルーシュは隣に居るC.Cに助けを求めるように見たけれど、彼女はただ知らん振りをしていて。
思わずがっくり、と肩を落としてナナリーの髪を撫でる。
「そうだな、大奥は綺麗だけど、怖いところだな」
「そうなんですか?じゃあ将軍は?可哀想な方なんでしょう?」
ユーフェミアが言う言葉に思わず首を傾げた。
それは、友達がいないという意味なのだろうか、と思ったが、そういう類の物ではなさそうで。
不思議そうにしているルルーシュを見て、ユーフェミアはきょとん、と目を丸くした。
「街ではもっぱらの噂よ?将軍は可哀想だけど、立派な人って」
「どうして可哀想なんだ?」
思わず問いかけると、ナナリーもお姉様は知らないんですか?と不思議そうに首を傾げていた。
ユーフェミアは自分が教えられることがあるのが嬉しいのか微笑んでいて。
「将軍、枢木スザクは生まれたと同時にお母様を亡くされたの。政権争いでご兄弟も暗殺やご病気で次々亡くされていて」
人差し指を振りながら離すユーフェミアの言葉尻を掬ってナナリーが続ける。
「スザクさんもお母様が亡くなったことで守ってくれる方がいなくて何度も危険な目にあったって」
つい先日まで居た大奥という場所を考えれば、それは容易に想像がつく話だった。
皆が自分の子供を将軍にと黒い欲望の渦巻く場所。
そんな噂話、笑い飛ばせないあの場所を思い返すとふるり、と肩を震わせた。
誰が敵で、誰が味方か、そんなことも幼いスザクには分からなかっただろう場所で。
「先代の将軍も暗殺でしたでしょう?それで、権力争いの中で唯一生き残られたのがスザクさんだったって」
「…そんな話、良く知っているな」
妹達の噂好きに思わず苦笑を浮かべていると、お姉様が噂話をしなさすぎなんです、とたしなめられてしまった。



夜、小さく聞こえる鈴虫の声に耳を傾けながら寝台に入る。
隣に控えているC.Cはぼうっと夜空を眺めていた。
「C.C。昼間の噂話、どの程度本当だと思う?」
「どの程度も何も、全部真実だ。あの場所を見たお前なら嘘じゃないことくらい分かるだろう?」
柱に背中を預けて、C.Cは瞳を伏せた。
「何故教えてくれなかったんだ?」
「お前が聞かなかったんだろう?」
さらり、と言われると自分だけ知らなかった事実にムカついてC.Cを部屋から追い出した。



大奥とは違って、相手をしてくれる人はたくさんいるし、寂しくなんてないはずなのに。
「会いたい、スザク」
無性に彼を抱き締めたくなるのは何故だろう。



それから数日は心ここにあらず、といった風だった。
ぼうっと外を見つめて、溜息をついて。
C.Cにうっとおしいと言われても、収まるわけがなくて。
「あぁもう、そんなに気になるなら行けばいいだろう。会いに!!」
「いける訳無い。里下がりを命じられた身で」
ずん、と暗い空気を纏ったままルルーシュが呟くと、C.Cが大きなため息をついた。
「いつからそんなに大人しい女になったんだ?お前は。こんな時こそ家の格と元御台という立場を利用せずにどうする」
C.Cの言葉は厳しいが、背中を押されているような気がして、ルルーシュは小さく笑みを浮かべた。



「お姉様、どうしてまた行くんですか?」
「ごめん、ナナリー、ユフィ。俺はアイツの傍に居たいんだ」
再び来た別れに、ナナリーとユフィが残念そうな顔をした。
姉であるコーネリアがルルーシュの肩をすっと撫でる。
「大奥に行くことが、お前の幸せなんだな?」
「…それは、分かりません。けど、俺はスザクの傍にいたいんです。アイツを一人にしたくない」
決意を決めたような紫色の瞳で見つめられて、コーネリアはふっと笑みを浮かべた。
「分かったよ。私はお前を応援している。良い女になったな」
「ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げると、馬へと跨る。
隣につけられた馬にはC.Cがいつものように興味無さそうにぼうっとしていて。
「C.C。俺だけでもいいんだぞ?別についてこなくても」
「何を今更。私から面白い余興を奪うな」
ふふっと笑うC.Cを見て、ルルーシュの口元にも笑みが浮かぶ。



今から帰るよ、スザク。
お前が俺をいらないと言ったとしても。
お前はお前が思っている以上に弱い男だから、私がその体を支えよう。


to be continu...