「アーニャ!!スザク見てないか!?」
下級生の教室へ行ってアーニャを捕まえると真っ先にスザクをみかけていないかと問いかける。
どうして同じクラスのジノが知らないのに、下級生の自分がしっているんだろう、と思わず溜息をついた。
クラスメイトはジノを見てクスクスと笑っているし、飽きもせず休み時間の度に起こるこの光景は呆れるどころか慣れてきた。
毎回逃げるスザクもスザクだが、毎回逃げられるジノもジノで何で阻止できないのだろう。
「今日は、来てない。知らない」
視線すら向けずに携帯を弄っていると、ジノがどたどたと凄い勢いで他の場所を探しに行った。
足音が完全に消えたのを見計らって机の下を覗き込む。
「スザク。ジノ、行ったよ。もう大丈夫」
「ありがとう、アーニャ」
ふわりと笑顔を浮かべるスザクに小さく笑みを浮かべる。
つい最近まであんなに可愛かったのに大きくなって少し残念だったのだが、中身はやっぱりスザクで。
可愛いな、と内心思いながらスザクが出やすいように椅子を引く。
「でもどうしてジノから逃げるの?」
「何となく。私のワガママ…かな」
スザクの宣言の意味が一瞬分からず、首を傾げる。
スザクはくすっと何処か困ったような艶めいた笑みを見せる。
周りの男子生徒がざわめくのを見て、思わずジノにエールを送る。
「ふぅん?」
「皆に優しすぎるんだよ。私だけを見て欲しいのに」
「…ジノのこと?」
スザクは唇に人差し指に当てて妖しく微笑む。
内緒だよ、と言わんばかりの仕草は可愛らしくて、思わず携帯のカメラを向ける。
カシャ、と軽い音の後、ジノにメールを送ってやる。
もうすぐ休み時間も終わる。
メールを見てじきにジノが迎えに来るだろう。
とりあえず、スザクの可愛い反抗期に振り回されるジノに頑張れとエールを送っておこう。
「そういえば、ここに逃げてこない時はどこにいるの?」
「そういう時はルルーシュと一緒に抜け出してるよ」
「それ、ジノは?」
「知らないに決まってるだろ?」
にっこりと笑っているスザクを見ているとぎゅう、と後ろからスザクを抱き締める腕が伸びてきた。
「スザク…俺が何を知らないって?」
「内緒。さ、休み時間終わるし、行くよ。アーニャ、またね」
ひらひらと手を振って先に帰っていくスザクはジノのことなど見ても居なくて。
「哀れ…頑張ってね、ジノ」
ぐっと親指を立てると、ジノとスザクを見送った。



「なぁ、スザク、何で俺を避けるんだ?」
「それは、そろそろ親離れの時期なんじゃないか?」
「ルルーシュ、お前いつの間に…」
スザクの斜め後ろに現れたルルーシュに思わずジノは目を丸くする。
思わず呆然としていると、ルルーシュの腕がスザクの肩にまわる。
スザクはルルーシュの手を拒否することはせず、ルルーシュの言葉を否定することもせず、ただ黙って椅子に座っていた。
それになんとなく苛つく心を何とか笑顔で隠してスザクの目の前の席に腰をかける。
「なぁ、スザク「スザク、明日も付き合ってくれるだろう?美味しいプリンの店を見つけたんだ」
「いいよ。ルルーシュのお薦めなら絶対美味しいもんね」
ジノを置いてけぼりにして進む会話は、二人の距離の近さを見せ付けているようで。
明日も、という言葉にぐっ、と唇を噛む。
想いが通じ合ったと思ったのに。
しかもよりによってルルーシュと。
お前を酷い目に合わせた奴じゃないか、と。
心の底から何かもやもやしたものがこみ上げてくるのを感じる。
胸にそっと手を添えると仲良さそうな2人をじっと見つめた。



スザクは俺のなのに。



「スザク、遅いな」
ソファにだらりと体を預けて、ジノは時計を見上げた。
時間は夜の8時を回り、いつもならばもうご飯を食べてこの部屋で談笑しているはずなのに。
アーニャは気にもしていない様子で携帯をいじっていた。
「なぁ、アーニャ、心配じゃないか?」
「遅くなるからご飯いらないってメールあった。心配いらない」
「なっ!アーニャには連絡あったのか!?」
慌てて携帯を見てみるけれど、ジノの携帯には着信もメールも入ってきていなくて。
はぁ、と大きくて重い溜息が漏れる。
それをうっとおしそうにアーニャが目を細めたけれど、ジノはうぅ、と唸りながらソファに撃沈した。
「そんなに心配なら電話すればいいのに」
「したっていつも通話中で…」
つまり、着信拒否。
まさかそこまでされているとは思わなかったため、アーニャはジノに同情を覚えた。
はぁ、と溜息をついてアーニャは通話ボタンを押した。



「…お願い…早く帰ってきて。うっとうしい」



それから更に数十分。
帰ってきた瞬間飛びついてきたジノを華麗に避けるとスザクはアーニャに頭を下げた。
「ごめんね、アーニャ」
「気にしないで」
「スザクスザク!俺には?謝罪はないのか!?」
「…何で?」
首を傾げたスザクはジノの方を向いてもくれなくて。
アーニャにお土産だと渡したプリンはジノの分もちゃんとあったのだけれど、それでも。
寂しさを感じた。
「スザクぅ…アーニャも何とか言ってくれよ!無視するなとかさ!!」
「…スザク…素直になったら?」
アーニャのすみれ色の瞳に見つめられると、スザクはじっと黙り込んだ。
思わずいいぞっ、とエールを送りそうになるのをぐっと耐えてジノはアーニャを見る。
ふいにアーニャの瞳がジノに向けられるときょとん、とした。
「…ジノは…少し行動を改めたら。スザクを不安にさせないで」
「不安になんてさせてる覚えなんて無いぞ!?」
ちょっと待て!とアーニャに抗議するべく立ち上がる。
何よりも、誰よりもスザクを気にかけている自信はあるのに、スザクを不安にさせてるなんて心外だ。
「…スザクは大人だけど、子供だから」
「…は?」
ね、とアーニャの視線がスザクを捕らえるとスザクは眉尻を下げて、困ったように笑っていた。
その様子からスザクがアーニャには相談していることは容易に受け取れた。
また、仲間はずれ。
ジノは不機嫌そうに眉を寄せるとバンッ、と壁を殴りつけた。
「ジノ。プリンは?」
「いらねー!アーニャかスザクが食べろよ」
そのまま部屋を出て行ってしまうと、アーニャが肩を竦めて見せた。
スザクは困ったように笑うとプリンを出してお茶の用意をしていた。
何事もないかのようにふるまってはいたけれど心の中は穏やかではなかった。
怒らせてしまったのは初めてだったから。
「…美味しいね。このプリン」
話しかけられたことでハッと顔を上げる。
「あ、うん。でしょう?ここのケーキも美味しいんだよ」
「じゃあ次はケーキ…」
約束するよ、と微笑んで顔を上げて思わず息を呑む。
今までプリンに向けられていたはずのアーニャの視線はスザクに向けられていた。
しばらく見つめられていると、心の中を見透かされているようで思わず視線を反らす。
アーニャの澄んだ少しミステリアスな色の瞳は、苦手だった。
逃げるなと、しっかり向き合えと無言で責めている様なそんな瞳。
足元に擦り寄ってきたアーサーをそっと抱き上げる。
「スザク…」
「何?」
「ジノに会いに行かないの…?」
残ってるよ、と指先で指された先にはいらないと言われたケーキ屋のロゴの入ったプリン。
はい、と使っていないスプーンが差し出される。
ありがとう、とスプーンを取るとプリンと一緒に皿にのせる。
「行って来るね」
「いってらっしゃい」
興味が失せたように携帯を弄り始めたアーニャに微笑みを見せると足早に部屋を後にした。




小悪魔スザクにしようかとも思ったんですが、あえて純情でw
ルルーシュ殿下はしつこいですね(自分で書いておきながら何だ)
ジノはまだまだ苦労しそうです。


to be continu...