一方的に電話を切って携帯電話を机の引き出しにしまう。
携帯電話のサブウインドウに表示された『ジノ』という名前に反射的に取ってしまったが、その行為は決して許されるべきことではなかった。
今のスザクは『京都の巫女の枢木スザク』なのだ。
『ナイトオブセブン』でも『名誉ブリタニア人』でも『ヴァインベルグ家の居候』でもない。
ジノにとって、ただの敵でしかない。
きっと、あんなことを言ってしまったせいで、今頃ジノはショックを受けているだろう。
彼はとても優しい人だから。
けれど、ああでも言わないと、スザクが限界だった。
ジノの優しい声を聞いたら、縋りたくて、優しく伸ばしてくれる手を取りたくて、泣いてしまいたくなるのだ。
自ら望んで、今の状態にしたというのに、それはただの甘えでしかなく。
逃げてしまえば、自分が許せなくなる。
そして、今度こそ本当に、ルルーシュを止めることが叶わなくなってしまうだろう。
それでは意味がないのだ。
大好きな人と大切な人が笑っている世界であればいい。
その世界を作るためには、自分が、なんとかしなければ。



辛いのは、自分1人であればいい。



スザクは、そっと鳩尾に手を添えると会議へ向かう為に立ち上がった。
今日は大事な発表がある。
これからの自分の行く末を、京都の身の振り方を決めるべき、最初の一手を投じる大事な発表が。
心なし、いつもより重い足を引きずって扉を開けると、そこには仮面を被った大事な親友の姿。
彼に一つしっかりと頷くと彼のエスコートする手を取る。
「大丈夫か?スザク」
「大丈夫。今日は、僕の目的を発表するから。君もしっかりと聞いていて?」
じ、と見上げると仮面の向こうで、彼が小さく微笑んだ気がした。
「承知しました。巫女」
恭しく頭を下げる相手を見ると、会議室へと歩みを進める。
そこにはもう重鎮達が腰を据えて待っていることであろう。
ただの飾りである枢木スザクを。
けれど、スザクはただの飾りであるつもりなどない。
ここへ帰ってきたのは、争いを止めるためだ。
きゅ、と親友の手を握りしめると、優しく握り返され、すぐに離される。
確認、できた。
重い扉が開かれ、御簾越しの重鎮達を前に、スザクは凛と背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えた。



「皆さんにお話があります。私は、行政特区日本を、ブリタニアに進言しようと思います」



一気に場がざわめく。
当たり前だな、とゼロは仮面の下で苦笑を浮かべた。
そう簡単にスザクが味方につくとは考えていなかったが、まさかそんなものを考えていたとは。
相変わらずブリタニアを捨て切れてはいないのか。
す、と立ち上がりマントを翻し、スザクを見据える。
「それはどういう意味か?スザク嬢。ブリタニアに屈服する、ということですか?」
「違います!このエリア11の中に日本を取り返すんです!日本人もブリタニア人も共存出来る地区を一区域だけでも!」
それに何の意味がある、と不満めいた声があちこちで上がる。
どうせ変わらない、と諦めに似た言葉も聞こえる。
スザクは着物の裾を握りしめると、身を乗り出すように声を張り上げた。
「ならば!逆にお聞きします!本当にこの日本列島、全て取り返すこと、叶うとお思いか!?」
しん、と場が静まり返る。
皆、薄々分かっているのだろう。
紅蓮可翔式があることを考えたとしても、今、このエリア11にはトリスタン、モルドレッドを駆るナイトオブラウンズがいる。
そして、前総督が置いていったグラストンナイツと騎士までも。
戦力差がありすぎるのだ。
だが、もしブリタニアの中の小さな土地であったとしても、日本人としての居場所が手に入るとするなら。
それは、魅力的な提案だ。
しかも、誰一人傷つくことの無い、理想的な勝利。
「ですが、ブリタニアが認めるかどうか…」
そう、それが一番の難題だった。
ブリタニアが日本を認める意味が無い。
あちらの利点といえば、小競り合いがなくなる、ということくらいで。
「…それは、これから会談をして決めていくことです。ですが、我々の脅威がなくなり、日本人が大人しくなるというのは、悪い話ではないはず」
なるほど、とゼロはこめかみに指を添えた。
スザクが考えたにしては悪くない。
後は来週赴任してくるというエリア11の新総督の性格と判断に掛かってくる。
「いいでしょう。この策ならば万が一失敗したとしても痛手が小さい。こちらに不利になるわけでもない」
さり気なく後押しすると、スザクの肩から少し力が抜けたのが御簾越しでも分かった。
重鎮達も、ゼロが言うならばと行政特区日本の方へと意見が傾き始めた。
「異論は、ありませんか?」
再度問うスザクの声に反対する者はもういなかった。
しぶしぶかも知れないが、一応、その場は次の指針が見つかったという形でお開きになった。



会議が終わって、倒れこむように部屋のベッドに横になると、仮面とマントを外したルルーシュがベッド脇に腰をかけた。
「驚いた。まさかあんな事考えていたとは思わなかった」
思わず呟かれたルルーシュの言葉に、ころん、と寝転がったスザクが彼を見上げた。
「嫌だった?」
「…いや?」
そっとルルーシュの細い指がスザクの頬を撫でる。
スザクは指先のくすぐったさに小さく笑うとその手をそっと握り締めた。
「私は大きな物なんていらない、昔みたいに小さな場所でもいいから、笑い合える場所が欲しい」
贅沢かな、と首をかしげるスザクが可愛らしくて、ルルーシュは優しく微笑んだ。
「それはきっと、皆感じてる思いだ。俺はナナリーとスザクが幸せならいい」
だからお揃いだと笑いかけるとスザクは良かった、と小さく呟いた。
「頑張ろう、スザク。そして、一緒に、枢木神社のあった場所へ帰ろう?」
優しい優しいルルーシュの言葉。
甘いミルクで絡めて、暖かな心地よさに眠たくなるような言葉。
本当はその言葉に黙って頷いてしまいたいけれど、それは叶わないことも知っていた。
「駄目だよ、ルルーシュ。私は咎人だから。罰を受けなきゃ」
「良いんだよ、ルルーシュは知らなくて」



そう、君は知らなくていい。
8年前何があったかも。
私が君を守るために犯した罪も。
許しは請わないよ。
これは、私が墓場まで背負っていく業だ。




まさかの行政特区日本。
合衆国日本はスザクの性格上ないかな、と。
戦争勃発しそうですし。
ルルはスザクが幸せならなんだって良いんです。


to be continu...