『京都は行政特区日本の設立を要求する』



黒の騎士団と京都から声明が発表されたことで、政庁は一気に忙しさを増した。
イレブンごときが生意気なことを。
裏切り者のナイトオブセブン殿も困ったものだ。
そんなスザクや黒の騎士団を嘲笑うような言葉が飛び交う。
ジノはそのことに若干の苛立ちを感じながら連日行われる会議室へと足を踏み入れた。
今まで散々スザクの悪口を言っていたのだろう、ジノが姿を現したことで一斉に口を噤んだ。
ジノがスザクを可愛がっていたことも、保護者であることもここにいる誰もが知っている。
そんな状態でスザクのことを悪く言うなどジノを敵に回すようなものだ。
ラウンズを、名門ヴァインベルグ家を敵に回そうという愚か者はこの場にはいなかった。
「それでは、会議を始めます」
こほん、と咳払いと共に開始された会議は、ほぼ一致で要求に応じる必要はない、というものだった。
要求に応じなければ小競り合いが長引き、要求に応じれば小競り合いがなくなるだけ。
しかし、行政特区という形とはいえ、日本の設立を認める、ということが問題だった。
頭の固いお偉方にとっては『何故敗戦国の国をわざわざ認めてやる必要があるのか』。
そんな心持ちなのだろう。
別に自治権を求めているわけではないのだから認めてしまえばいいのに、とジノは内心呟いた。
そうすれば争いは終わる。
平和が手に入る。
トリスタンを駆る機会が減るのは寂しいけれど。
何よりもスザクが帰ってくる・・・かもしれない。
「とにかく、認める必要などありませ…「認めましょう」
結論を出そうとしていた会議長の言葉を打ち破ったのは第三者の声だった。
そこには車椅子に乗った少女の姿。
車椅子を押している女性には見覚えがあり、慌ててジノとアーニャは膝をついた。
それに習い、周りの者たちも次々と膝を折る。
少女達は車椅子を会議室の中心まで進めると、皆に立つように促した。



「このエリア11の新総督を任せられました、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです」



よろしくおねがいしますね、とにっこり微笑む少女はまだ幼く、てっきり車椅子の後ろに立つ女性が総督だと思った者達がざわめく。
「失礼ですが…ナナリー皇女殿下が…総督、ですか?」
「はい。そうです。副総督にはユーフェミアお姉様を。私たち二人で公務にあたります」
くっ、と顎を引いて話すその様子はしっかりしていて、覚悟を決めているように見える。
後ろで静かに佇んでいたユーフェミアがナナリーの隣に立つと引き締めていた口を開いた。
「行政特区日本、設立しましょう。あちらとの会談の機会を設けてください」
「ユーフェミア様!?」
「これで戦いが収まるのだったら、安いものでしょう?それとも、無駄に争いを続けたいのですか?」
お優しいユーフェミア様の口から出る言葉とは思えないほど鋭い言葉。
皇女殿下にそう言われてしまえば口を噤むしかない。
誰も戦争をしたいなんて考えていないのだから。
思わずジノは面白いお姫様だ、と口元に笑みを浮かべていた。
ナナリーは膝に置いた手をきゅ、と握り締めるとしっかりと『命令』した。
「黒の騎士団、京都と連絡を取って下さい。会談に応じましょう、と」
命令を受けて軍人達が会議室から方々へと散っていく。
後に残されたのは僅かな側近達とナナリーとユーフェミアとラウンズ。
ユーフェミアはジノを見るなり笑顔を浮かべて近づいてきた。
その勢いに軽く一歩後ずさりそうになるが、何とか踏みとどまり、臣下の礼を取る。
「お初にお目にかかります、皇女殿下」
「初めまして。ユフィ、と呼んで下さい。スザクのお友達は私のお友達ですから」
「は?」
話を飲み込むことが出来ずに思わず聞き返す。
気付けばナナリーも車椅子を操って、近くまで来ていて。
「スザクは私達を裏切ったりできる子じゃないわ」
「ジノ・ヴァインヴェルグ卿、スザクさんを助けるために…」
二人の皇女の白い手が跪くジノへと差し伸べられる。
「「私たちに力を貸してくれますか?」」
切実にされたお願いを、ジノが断る理由などどこにも無かった。
「イエス・ユアハイネス。喜んで、本気でやらせて頂きます」
笑顔でありがとう、と言われると、お礼を言いたいのはこちらの方だ、と内心呟いた。



「ところで、お二人はスザクとどんな関係なんですか?」
ずっと気になっていた質問を突きつけると、アーニャも気になっていたのか携帯から顔を上げた。
ナナリーは両手を折りながら何やら数えると微笑みながら11年前のお友達です、と言った。
ユーフェミアも車椅子を押しながら1、2…と数えると私は10年かしら、と微笑む。
つまりはジノよりずっと前からのお友達、ということだ。
そういえばスザクは皇帝から直々に頼まれたのだし、王族と繋がりがあってもおかしくない、ということなのだろうか。
思わず疑問符を浮かべるジノとアーニャに、皇女達はふふっと笑いながら話を続けた。
「私は11年前、日本の枢木首相のお家でお世話になったんです。その時お友達になりました」
ナナリーは懐かしそうに呟くとどこか寂しさを匂わせ、そっと俯いた。
その手をきゅ、とユーフェミアの手が包み込むように握る。
その様子は本当に仲が良いことを感じさせて。
空気を変えようとするかのように、ユーフェミアは微笑んだ。
「私はブリタニアに来たスザクとたまに遊んでいたの。大人の目を掻い潜って」
スザクはとても変わった子だったわ、と思い出に浸るユーフェミアが、ジノには羨ましかった。
そういえば、ジノはスザクを何も知らない。
彼女が少しだけ話してくれた過去と、共有した記憶だけ。
今のスザクが考えていることも、何も知らない。
自分の情けなさに嫌気が差して空笑いを浮かべると、しばらく空を彷徨ったナナリーの手がジノの手に添えられた。
「大丈夫です。思い出は、これからでもたくさん作れます」
思いを見透かしたような言葉。
目が見えない分、心の中を見通す力があるのだろうか。
ジノは有難う御座います、と礼を言うと、よし、と意気込んだ。



「頑張るぞ、スザクとの、思い出作りのために!」




ユフィとナナリー登場です。
注釈ですが、ブラックリベリオン、起きてません。
ナナリーは日本敗戦の折に、ルルーシュとは引き離されてブリタニアへ帰還しました。
そのあたりの話や、ユフィとスザクの初対面はいずれ話に入れたいと思っているのでこの辺で…


to be continu...