突如倒れてしまったスザクに駆け寄るルルーシュを制してスザクを抱き上げる。
酷く苦しそうな表情で、その額には汗が滲んでいて。
抱き上げた体は政庁にいた頃よりも更に痩せて軽くなったようだった。
その体をぎゅ、と抱きしめていると、ユーフェミアが呼んだのだろう、喫茶店の外に車が待っており、それに乗り込んだ。
そのままルルーシュも連れて政庁に戻り、そのままにしておいたスザクの部屋へと運び込む。
すぐに呼ばれた軍医により診察が始まると、ジノとルルーシュは外へと追い出された。
「ルルーシュ。ずっと具合は悪かったのか?スザク」
「確かに、働き詰めている感じはしていたが…それよりも…」
思い当たるところがあるのか、口元に手を当てて考え込むルルーシュにジノが苛立つ。
何だと言うんだ。
こんな奴に聞かなければならないほどスザクについて何も知らない自分自身が腹立たしい。
しばらくして口を開いたルルーシュは、じ、とジノを見つめていた。
「俺のところに来た時、酷く思いつめていた。心当たり、あるんじゃないのか?」
ルルーシュの言葉に思わず黙り込む。
心当たりはあり過ぎるほどあったから。
口を噤んだジノに、ルルーシュは溜息をついた。
「ジノ、と言ったか。スザクをどう思っているんだ?」
「どうって…スザクは…スザクは俺の大事な人だ」
きっぱりと自分にも言い聞かせるように言うと、ルルーシュは眉間に皺を寄せた。
じ、と見つめられると、独特のアメジストのような瞳が射抜くようにジノを睨みつける。
「倒れた原因がお前だけだとは言わない。スザクが我慢強すぎるせいもあるし、疲れもあるんだろう。だが…」
一瞬たりとも反らされない瞳は決して大きいとは言えない彼の体を酷く大きく感じさせて。
ジノはごくり、と息を呑んだ。
「スザクは弱いのに強がる頑固者だ。大丈夫じゃないくせに大丈夫と笑うような、な。だから、勘違いするな」
「どういうことだ」
「あいつが笑っていても、きっと心は泣いていることがある、ということだ」
それくらい分かれ、と言わんばかりに顔を反らされて、ジノは苦笑を浮かべた。
「どうしてそんなこと教えてくれたんだ?」
「俺がアイツを支えきれないことは昔から良く分かってる。今支えられるのはお前なんだろう?」
顔を反らされているため顔は見えないが、彼の肩が僅かに震えている。
きっと、彼なりの強がりなのだろう。
ゼロはプライドが高いと聞く。
彼はゼロなのだから。
「ルルーシュ。ありがとう」
「煩い!礼なんかいらない!分かったら今度はスザクを泣かすなよ。泣かしたら今度こそスザクを…」
「させないよ」
ふっ、と微笑むとルルーシュの肩をぽん、と叩いた。
彼の肩はまたピクリと震えたが、見ないフリをした。
「ジノ。スザク、目、覚めた」
アーニャの言葉に腰をあげて部屋に入ろうとすると、ドン、と大きな音が廊下に響いて、振り返る。
それはルルーシュが壁を思い切り叩いた音だった。
「ルルーシュ。約束する。絶対スザクを泣かせない」
それだけ伝えると、ジノは部屋へと足を踏み入れた。
スザクの瞼はまた重そうで、寝ぼけているといった様子で、その頬に手を添えるとすり、と小さく擦り寄ってきた。
猫や犬のような動作に思わず頬が緩む。
ベッドの傍に椅子を置いて座るとスザクの白い手をぎゅう、と握り締めた。
「大丈夫か?スザク」
「…大丈夫。ごめんね、心配かけて」
ふわりと微笑むスザクを見て、ルルーシュの言っていた意味を知る。
「馬鹿。無理するなよ。大丈夫じゃないだろ?」
優しく髪を撫でると拒否されることはなくて、ほっとする。
「うん。少し、疲れた」
「そうだろ?俺には嘘つくなよ。スザク。おかえり」
握った手を自分の頬に当てて優しく微笑みかけると、スザクは一瞬目を丸くして、小さく微笑んだ。
「ただいま」
ルルーシュは悔しさに握り締めた拳を解くといつの間に来ていたのかナナリーの手を優しく握った。
小さく微笑むとナナリーに一つ、耳打ちをする。
耳打ちされた話の内容に、少し戸惑ったように眉を寄せていたが、こくり、と頷く。
それを確認すると、ルルーシュはナナリーの車椅子を押して、政庁のメインルームへと向かった。
メインルームに入るといきなりの第三者の入室に一瞬ざわめく。
これは誰だ、と好奇の視線がルルーシュに注がれるが、彼は気にも留めず、ナナリーが差し出した電話を取った。
「…お久しぶりです。シュナイゼル兄上。お話があります」
ジノは少し容態の落ち着いてきたスザクの傍で、ずっと手を握っていた。
幼い姿をしていたときのスザクは、控えめなスキンシップが好きだったから。
ゆっくり手を揺らしてやると、スザクはじ、とジノを見つめた。
「ジノ…怒ってないのか?」
「怒る…?何で」
「…ルルーシュの所行っちゃったし…京都の代表にも…」
俯きながらつぶやくように言うスザクの髪をそ、と撫でる。
「ばーか」
「馬鹿ってなんだよ」
「スザクが一生懸命考えて、これが一番いいと思ったことなんだろ?」
問いかけると、彼女がこくん、と頷く。
「後悔はしてないんだろ?」
問いかけると、またこくん、と頷いた。
その答えにほっとして、そっと抱き締めると、彼女の肩がぴくり、と震えた。
「なら、いい。俺はこれからのスザクを何があっても守るから」
守られてくれるか?と見つめると、スザクの瞳から涙が零れた。
「けど、ジノに守ってもらえるような人間じゃない…」
「俺が守りたいんだ。スザクを、ちゃんと支えたい」
抱き締めてくれる腕は酷く優しくて。
「…ジノ…けど、ダメなんだ。僕は罪を…」
「もし国外追放になったらついて行ってやるから、安心しろ」
冗談まじりに言うと、スザクは眉尻を下げて、苦笑を浮かべた。
「ラウンズ降格になっちゃうじゃないか」
「いいんだよ、スザクと一緒にいるのが一番なんだから」
「ヴァインベルグ家の威厳もなくなるんじゃない?」
「兄弟がいるから平気だ」
「トリスタンに乗れなくなるかもね」
「う、それは残念かもしれないな。けど…スザク泣かせるよりはいい」
抱き締めた手に少しだけ力を込めると、馬鹿、と言われてしまったけれど、ジノは幸せだった。
一度失った温もりは大きかったけれど、再び帰ってきたのだから。
やっと再会しましたよー
お待たせしましたっw
次回はルルーシュのターンです。
to be continu...