相変らず鉛のように重い体は、倒れた当初から比べると回復の兆しを見せていた。
軽い運動くらいはできる体になっていた。
だが、状況がそれを許す事はなく。
ただ、ベッドの上から窓をじっと見つめる事しかできない、そんな毎日が続いていて。
毎日のように体を動かす事が日課になっていたスザクには、正直物足りない。
だが、元京都の代表、裏切り者のナイトオブセブンであるスザクに自由が許されるはずもない。
部屋の中をたまに歩き回るだけの軟禁状態が続いていた。
スザクが部屋にいる間に、外では大分事情が変わっているらしい。
たまに見舞いに来てくれるアーニャが説明してくれた。
彼女は京都や黒の騎士団が消滅した事で任務が激減したのだと、呟いていた。
行政特区の設立式典が終わってから1ヶ月の間は在住するが、その後は分からない、と彼女らしくもなく言い辛そうに呟いていた。
意味するところは、スザクを置いて帰国する、と言ったところだろう。
スザクのナイトオブセブンの座は没収されたのだと通知が来ていたし。
ラウンズが去るということは自動的にジノも帰るのだろう。
そうなると、今度こそ自分はジノから離れる事になってしまうのか、と残念にも思うが。
それも『罰』なのだ、とスザクは瞳を伏せた。
ルルーシュは正式に皇族に名を再び連ねる事になったらしい。
もちろん、ゼロとしての過去を隠して、ナナリーの補佐になるのだ、と笑っていた。
父親を恨む気持ちは残っていたが、元々自分はナナリーを幸せにしたかったのだから、彼女の願いをかなえる、と。
妹思いの彼らしくて、思わずスザクは微笑んだ。
このエリア11はナナリーとルルーシュに任せておけば何の問題も起こらないだろう。
行政特区日本の立ち上げ人として、責任を持って総督を務めることになるというし。
ユーフェミアも我侭を言ってでも、ナナリーとルルーシュの傍にいてくれる、と約束してくれる。
本当にやることはなくなったのだな、としみじみとスザクは思った。



軟禁されている状態は、嫌でも暇だけはたくさんある。
そのせいだろうか。
スザクは考え込む事が多くなった。
そのために、胃の痛みは治る事が無くキリキリとスザクを蝕む。
忙しいのが性にあっているのだろう、としみじみと感じる。
マイナス思考ではないと思っていたのだけどなぁ…と思いながら、スザクは枕に顔を埋めた。
そういえば、ジノの顔を長く見ていない。
最後に見たのはいつだろう。
倒れた次の日だったか。
寂しい、と言う気持ちと、会ったら弱音を吐いてしまいそうで会いたくない気持ちが交差する。
それよりも、今の2人の関係は何なのだろう。
告白まがいのことをしてしまった記憶はあるが、はっきりと付き合うという話をしたわけでもない。
それに何より、身分違いだし、自分は裏切り者だ。
それならやはり保護者なのだろうか。それともただの足手まとい?
考えはどんどん暗い方、暗い方へと歩みを進める。
「…う…ぁ…」
気持ち悪い。
自分はこんなに弱い人間だったろうか。
精神的にどんどん弱っていく自分を客観的に見て、また自己嫌悪に陥る。
なんて悪循環。
自分は何をしたいのだろう。
スザクには、何も考えられなかった。



コンコン、と軽いノック音の後、現れた相手に、スザクは横たえていた体を慌てて起こした。
急に体を動かした事で、軽いめまいに襲われるが、そんなものを気にしている暇は無かった。
「あぁ、そのままでいいよ。随分綺麗に育ったね、スザク」
すっかりレディだ、と微笑みかけるその人は、シュナイゼル・エル・ブリタニア。
スザクは、ゆっくりと近づいて来て、ぎゅう、と抱き締めてくるシュナイゼルに肩の力を抜いた。
「こんなにやつれて…可哀相に。父上の命とは言え君を手放すべきではなかったかな」
寂しげに言われる言葉にスザクはふるふると首を振る。
シュナイゼルの元を離れたから得たものも、できたこともあった。
だから、貴方が気に病むことはないのだ、と見上げると、シュナイゼルは困ったような微笑を浮かべた。
本当に、ルルーシュの兄弟は優しい人ばかりだ。
だから、ブリタニアという国を嫌いになれないのだ。
「シュナイゼル殿下…すみません」
「何を謝る事があるんだい?君は君にできる事をしただけだ。それに、君の行動はこちらの被害を少なくしてくれた」
「でも…」
「私は君とルルーシュ、どちらかを罰しろと言うなら迷わずルルーシュを罰するよ?」
茶化すように言われた言葉に、スザクは困ったように笑う。
この人はこんなことを言っていても罰するつもりなど無いのだ、と。
スザクを抱き締める手にぎゅ、と力が込められる。
「それよりも、悲しいね」
寂しげな声に顔を上げると、シュナイゼルの手にふわふわの髪を撫でられた。
あ、懐かしい。
「幼い頃のように甘えてはくれないのかい?ほら、シュナ様って呼んでくれていただろう?」
「な、何年前の話ですか!?」
「ほんと7年ほど前だろう?でも本当に大きくなってしまって。お嫁に行ってしまうのも近いのかな?」
「殿下、お父さんみたいだ」
思わず笑ってしまうと、シュナイゼルに額に優しく口付けられた。
昔、なかなか眠れなかった頃、してもらったおまじない。
気恥ずかしさから頬を僅かに赤く染めると、シュナイゼルは満足げに笑った。
「あぁ、やっと笑ってくれた。やっぱりスザクは笑った顔が可愛い」
指摘されて、思わず口元を両手で覆った。
そういえば、いつの間にか肩の力が抜けていて。
シュナイゼルを見上げると、彼は変わらず微笑を浮かべていた。
「あの…しゅな…「殿下、そろそろお時間です」
話そうとした瞬間、廊下からの声に遮られて、スザクは慌ててシュナイゼルから離れた。
そういえば、自然と抱かれていたけれど、これは不敬罪なんじゃないだろうか、と真っ青になる。
「すまない。時間切れのようだ。また来るよ」
最後にそっと手の甲に口付けられて、懐かしい体温は離れていった。
素直に寂しいと感じながらも、スザクは微笑を浮かべてシュナイゼルを見送る。
再び閉じられる重い扉。
自分を皆から遠ざける壁。
自分の力で開けることは簡単なことのはずなのに、できない。
扉に伸ばすと手も足もガタガタと震えて、スザクは再びベッドへと戻った。



「わざわざお呼びしてすみません」
「いやいや、久しぶりにスザクにも会えたし、何より君に再び会う事ができたんだ。構わないよ」
ルルーシュは目の前に座った兄を見ると、苦笑を浮かべた。
幼い頃から何をやっても勝てなくて、けれど、他の兄弟の誰より尊敬していた兄。
黒の騎士団の頃は強敵だと思っていたが、今は…。
「それで、用件は何かな?」
「スザクに終戦の折、何があったのか、教えていただきたい」
真っ直ぐシュナイゼルの藤色の瞳を睨み付けるようにして見据えるときっぱりと言った。



スザク、俺はお先に一歩先へ進ませてもらう。
真実の扉を開こう。




あれ、全然ルルーシュのターンじゃなかったですねorz
次こそルルーシュですから!!
シュナイゼルはスザクのお父さん的存在だったら良い。


to be continu...