「アーニャ!アーニャ!お願いがあるんだっ!」
スザク用にカスタマイズされた、ナイトオブラウンズの白いプリーツスカートが翻る。
膝上の、少し風が吹けば下着が垣間見えてしまいそうなスカートに気にせずスザクはちょこんと膝を立てて座った。
そんなこと気にもならないほど切羽詰っているのだろうけれど。
今ジノが居ればさぞかし面白い…悶絶するジノが見れたのだろう、とアーニャはじっとスザクのスカートを見つめた。
両手で大事そうに抱えた携帯電話がお願いに関係しているのは想像がつく。
けれどまずは、とスザクの膝に無言で手をかけて、ちゃんと座らせる。
あのスザクバカのジノがいつ来るとも分からないから。
「あのね、アーニャ。お願いが!」
「うん。聞いてる。何?」
「メール、したいんだ」
ずずいっとアーニャに突きつける携帯電話は新着メールを告げるランプが点灯していた。
携帯の使い方を教えていなかったことに疑問符が浮かんだけれど、そういえば通話のみだった、と思い出す。
どうせナイトオブラウンズの連絡手段は電話だけだから、とそれ以外は一切教えていなかったのだ。
ということは、このメールの相手は誰なのか。
そういえば、この前迷子になったと聞いたことを思い出す。
「分かった。教えてあげる。相手はこの前助けてくれた人?」
スザクの携帯をひょい、と取り上げると、スザクがこくん、と頷いた。
「ジノに教えてもらおうと思ったけど、ジノは前消そうとしたから…」
スザクの携帯に知らない男の履歴があって、ジノが怒って消そうとしたのは記憶に新しい。
アーニャは開いた携帯をスザクの手のひらにちょん、と乗せた。
スザクはきょとんとしながら携帯を見つめていたけれど、アーニャに言われるがままにボタンを操作する。
「あ、アーニャ。文字出た!」
「うん。良かったね」
てっきり喜ぶと思っていたのだけれど、スザクは眉間にめいっぱい皺を寄せて携帯を睨み付けていて。
「どうしたの?」
思わず声をかけると、泣きそうな顔をしながら見上げられた。
さっきの元気すぎるスザクといい、今日は初めての表情ばかり見る。
少し外れたことを考えていると、スザクが携帯を突きつけてきた。
「…読めない…」
あぁ、それでさっきから困ったような難しい顔をしていたのか。
「読んでいいなら、読む」
「お願いっ、アーニャっ」
「ん」
『スザク、久しぶりだな。元気にしているか?
俺はもちろん元気だ。
この前みたいに泣きそうになってるんじゃないかと思って。
泣いてないだろうな?
お前、泣き虫だからな、意外と。
本題に移ろう。一緒に遊びに行かないか?
ジノだったか…もちろんお前の保護者も居て構わないぞ?
日は今週の日曜日だ。
急ですまないな。
返事を待っている。
ルルーシュ・ランペルージ』
「デートの約束…?」
一通り読み終わった直後、アーニャは思わずぽつりと呟いた。
スザクはルルーシュとお出かけっ!!と諸手をあげて喜んでいて微笑ましいけれど。
保護者はOKを出さないんじゃないだろうか。
「行く!絶対行く!えっと、返事を…アーニャ!」
「それはいいけど、ジノに一応相談しなくていいの?」
保護者でしょ?と問いかけると、何で?と言わんばかりに首を傾げられた。
ジノは目に入れても痛くないと言わんばかりにスザクを可愛がっているのに報われない。
思わずアーニャはジノに同情を覚えた。
「とりあえず、連絡。ジノが良いって言ったら、返信、教えたげる」
その交換条件に、スザクは一瞬無表情になったけれど、大急ぎでジノに連絡を取っていた。
「スザアアアアアアク!!で、デートって誰とだよ!俺は許さないからなっ!!」
連絡を受けて大急ぎで帰ってきたジノは部屋に入るなりスザクをめいっぱい抱き締めた。
抱き締められたスザクは嫌そうな顔を隠すこともせず。
「ジノがダメって言っても行く」
「そんなに意固地になってるってことはアイツだな!?ルルーシュとかいう奴!」
なんでそんなにアイツが絡むと生き生きしているんだ、とスザクを見ると、本人はきょとんとしていた。
「ルルーシュと会わなきゃいけない気がする。大事だと思うんだ」
さらりと言われた言葉はスザクの言葉とは思えないほどハッキリとしていて。
ジノはただならぬものを感じて、口を噤んだ。
もしかしたらスザクの記憶を取り戻す種となりえるのかもしれない。
そのルルーシュという少年は。
「分かったよ。その代わり俺も行くからな?ルルーシュは良いって言ってくれてるんだろ?」
大きく息をついて妥協すると、嬉しそうにスザクがめいっぱいの笑顔を見せた。
普段は苦笑すら浮かべないくせに、と内心文句を言うが、早速アーニャとメールを返信しているのを見ると思わず笑みが浮かぶ。
俺にもあんな笑顔を見せてくれるようになるのかな、と思いながらスザクの髪をぽすぽすと撫でた。
「打てたっ!ルルーシュ返信くれるかな?」
簡単な単語だけが羅列した文章とも呼べないような文章はとても読みにくいものだったが、スザクにはそれが精一杯で。
「大丈夫。返ってくるさ。スザク頑張ったもんな」
優しく髪を撫でているとピロリロ♪と返信を告げる音が鳴った。
スザクは先ほど教えてもらったとおりにメールを開けると、必死に解読を始めた。
今度は簡単な単語の羅列だけだったのか、スザクは今度は自力で返信に挑んでいた。
「そんなに好きなのか?ルルーシュとかいう奴。挨拶もしない奴だぜ?」
「何、ジノ。ヤキモチ?」
「…かもな。俺がどう頑張っても引き出せない表情を簡単にスザクから引き出しちまうんだもんなぁ」
もう1年も一緒にいるのに、と肩を落とすと、アーニャがぽん、と肩を叩いていた。
まさかアーニャに慰められる日が来るなんて、と思わず苦笑が浮かぶ。
『ルルーシュへ。
日曜日に会うの、楽しみ。
ジノと2人で、行きます。
ルルーシュにジノを会わせたいな。
ちょっと変だけど、頼りになって、大好きだから。
日曜日、10時、東京タワーで待ってます。
枢木スザク』
「返信、と。出来た!アーニャ、出来たよ!」
「スザク、偉い」
アーニャに撫でてご満悦になっているスザクの頭の中は次の日曜日のことでいっぱいだった。
どこへ連れて行ってくれるのだろう。
どんな服を着よう。
ルルーシュとジノと。3人で遊ぶ休日はきっと素敵だろう、と。
「何の計画だ?楽しそうだな」
C.Cはベッドに横になると、不気味な笑みを浮かべながらタイピングを続けるルルーシュを見て、思わず問いかけた。
「日曜の計画だ。スザクという少女とお出かけだ。それと同時に黒の騎士団の計画を1段階先へ進める」
「アリバイ工作か?」
「あぁ。絶好の機会だろう?」
ニヤリ、と楽しそうに笑うルルーシュは迷子のスザクを保護した好青年、という印象はなくなっていて。
「そして、願わくば…」
パソコンのウインドウいっぱいに広げられたデータをルルーシュは横目で見やる。
そこには様々なスザクが映っていて。
「取り戻す。枢木スザクを。アイツは俺が…」
決意を込められた言葉に思わずC.Cは肩をすくめて見せた。
ますますジノスザから離れた気が…
えーと、スザクたん、メールを覚える、の巻、です。
次回、おデート、の巻。
to be continu...