ふわふわのマシュマロのようなスカートをはいて、アーニャの部屋へとスザクは駆け込んだ。
今日の格好はジノがこの前買った、薄いピンク色のレースをふんだんにあしらった可愛いスカートに真っ白なブラウスとクリーム色のボレロ。
普段、嫌々ジノに着せられるような格好をしていた。
そのことに軽い驚きを覚えながらもアーニャはスザクを迎え入れた。
「アーニャ、この格好、変じゃない?」
服装が気になるのだろう、スカートを指先でつまんで、軽く持ち上げると、不安そうにアーニャを見上げた。
その行動に、普段は格好に無頓着で着方も分からなくてジノに着せてもらうようなスザクも女の子なのだな、と実感する。
「変じゃない、似合ってる。ジノのコーディネート?」
「今日は、私が選んだ。ルルーシュに会うから」
服も自分で頑張って着たんだ、と言う彼女は、まるで思春期に入りたての恋する女の子で。
アーニャは、そう、と素っ気無く言うと机の引き出しから小さな花のコサージュを取り出し、ボレロにちょこん、と付けてあげた。
「あげる。この方が可愛い」
コサージュを見ると、スザクはまた笑顔を見せて。
いつも笑ってたらいいのに、と呟くと、スザクを鏡の前に座らせた。
髪を綺麗に整えて、少しだけ髪をすくって、頭の上の方でスカートと同じピンク色のリボンで結ぶ。
あと、少しだけスザクの顔に化粧を施すと、見違えんばかりにスザクは可愛らしくなって。
「記録」
ぴろりろりん♪と音を立てて、スザクの写真を携帯に収める。
スザクが、きょとんとしながら見上げてきたから、髪型を崩さないように撫でると、そっと肩を叩いた。
「デート、頑張って」
小さくガッツポーズを付けて言うと、スザクはこくり、と頷いた。
そのまま迎えに来たジノに駆け寄って抱き上げられていて。
ジノは去り際に親指を立ててきたけれど―決してジノのために飾り立てたわけではない―アーニャはぼうっと見送った。



待ち合わせは東京タワー。
スザクは初めて来た場所で緊張しているのか、すっかり固まってしまっていて。
ぎゅう、とジノの手を握って離さなかった。
そのなんとも可愛らしい行動に思わずジノの頬は綻んでいて、スザクに睨まれて。
このままルルーシュとかいう奴が来なきゃいいのに、と思った瞬間、スザクはジノの手を離して走っていってしまった。
「お、おい!スザク!!」
スザクが走っていった先には…
「ルルーシュっ!!」
ぎゅう、と抱きついた先にはとても綺麗な少年が立っていて。
その整いすぎた顔立ちに思わず絶句する。
あれが『ルルーシュ』か、と認識しながらゆっくりと近づく。
スザクをさり気なくルルーシュから引き剥がして抱き上げる。
スザクが一瞬嫌そうな顔をしたが、ジノはそのまま愛想の良い笑みを浮かべて、ルルーシュに手を差し伸べた。
「ルルーシュさん、ですよね。俺はスザクの保護者のジノです。この前はありがとうございました」
「あ、いや。ルルーシュ・ランペルージです。俺こそ、今日はいきなりすみません」
ぺこり、と頭を下げる少年はとても礼儀正しいのに、何か胡散臭い、というのが第一印象だった。
「ルル、ルルーシュ。今日は誘ってくれてありがと」
「どういたしまして。今日は可愛くしてもらったんだな。ジノさんにしてもらったのか?」
「今日はちゃんと自分で選んだんだよ」
「へぇ、そりゃすごいな」
ころころと色を変えるスザクの表情に思わずジノは目を丸くした。
いつもの仏頂面など見せやしない。
ただルルーシュに相手をしてもらって笑顔をみせたり、拗ねたり。
まるで別人だと肩を落とした。
「どうかしましたか?」
黙り込んでいたのを不思議に思ったのかルルーシュが聞いてくる。
「あ、いや。こんなにスザクが楽しそうなのは初めて見たなと思って」
「あぁ、難しいでしょう。コイツ、相手を信用するまでは牙をむくから」
「…は?」
まるでよく知っている人のことを話すようなその口調に思わず眉を寄せる。
スザクはジノの腕の中できょとんとしながら二人の顔を見比べていて。
「あ、すみません。同じ名前の知り合いが居たんで、つい重ねてしまったみたいで。スザクはアイツじゃなかったな」
もしかして、とジノの頭の中を一つの可能性がよぎる。
昔、スザクとルルーシュは知り合いで、なんとなく覚えているから、こんなにスザクになついているんじゃないか、という可能性。
一縷の希望を抱いてルルーシュを見ると、次の瞬間、その希望は打ち砕かれた。
「けど違いますね。そいつは俺と同じ年ですから」
「そ、そうか…」
話に飽きたのか、スザクがジノの服を引っ張ったことで、話は中断になった。
ルルーシュが苦笑しながらスザクの髪を撫でる。
「じゃあ、行こうか。動物園のチケットがあるんだ」
スザクが諸手をあげたことで動物園行きが決定となった。



初めてだというスザクの勢いで、ルルーシュとジノの手がぐいぐいと引かれる。
ルルーシュは体力が無い方なのか、困ったような顔をしていて。
一方ジノはスザクと一緒になって、次は象だ!だの、次は猿!だのはしゃぎながら園内を練りまわる。
眉目秀麗なルルーシュと、背の高いジノと、可愛らしいスザクはどこへ行っても注目の的で。
けれど、どこかアンバランスな組み合わせに、周りからはどう見えるんだろう、とルルーシュは考えていた。
仲の良い兄弟か何かなのだろうか。
「ルルーシュ、遅い!餌やり時間終わっちゃうよ」
両手を上げて、はしゃぐスザクを見ると、どうでもいいか、と思ってしまうけれど。
ルルーシュは、はいはい、と返事をして、前を駆けて行くスザクの後ろを追いかけた。
ゲージの向こうではペンギンが投げ入れられた魚を上手に食べていて。
「可愛いーっ」
「お、見ろよ、アイツスザクそっくりじゃないか?」
ジノが指差す先にはお母さんの後ろにぺたぺたとついていく子ペンギンが居て。
「前のお母さんペンギンが俺だとしたら、そうだろ?」
付け加えられた言葉に思わずスザクが不満そうな顔をする。
柵に体重を預けて、覗き込むように手を伸ばすスザクの体をさり気なくジノが支える。
慣れているような自然な動作にルルーシュは思わず眉を寄せた。
「それならあっちがいい。仲良く二匹で泳いでる大きいのがジノで小さいのが私」
仲良く話す二人の様子にはルルーシュの入る隙なんて無いように見えて、ルルーシュはスザクの顔を覗き込んだ。
スザクはいきなりで驚いたのは頬を僅かに赤く染めた。
「スザク、じゃあ俺に似てる子はいるか?」
ペンギンに話を移すとスザクは一生懸命考えながらペンギンを選んでくれて。
その様子に思わず笑みを浮かべて、そっとスザクを抱き上げた。
そろそろだ。
時計をさり気なく確認するとサイレンと放送が園内に響き渡る。
「なにっ!?」
すっかりパニックになった園内は人が右往左往に溢れかえり。
あっという間にジノは見えなくなった。
スザクを抱えたままルルーシュは出口とは逆の方向へと歩き出した。
「…ルルーシュ?ジノ、あっち…」
「こっちでいいんだよ、大丈夫」
逃げられないように抱き締める手に力を込める。
大きな音を立てて近づいてきた非行型のナイトメアを見た瞬間、スザクは目を丸く見開いた。
じたばた、と今更暴れだすスザクを腕の中に閉じ込めてルルーシュはナイトメアへと走り寄る。
「カレン!早くしろ!行くぞ!!」
「分かってるわよ」
ナイトメアのマイク越しに苛立ったような女性の声が聞こえてスザクは思わずめいっぱいの力で両手を突っ張った。
だが、10歳児の力がルルーシュに勝てるわけも無くて、抵抗も虚しく、ナイトメアの手へと乗せられてしまう。
「ジノ…ジノ!」
狂ったように暴れだすスザクに苛立ったようにルルーシュが舌打つ。
「スザク!俺がお前を守るから!何も怖がることは無い!落ち着け!」
抱き締める手を強めて背中を撫でても、嫌々と首を振っていて。
酷く必死で。
カレンに命じてそのままナイトメアを飛び立たせた。
黒の騎士団の母艦に向かって。



「スザク!スザク!!くそっ、何でこんな時に限って!!」
トリスタンさえあれば、と思わずジノは唇を噛む。
ルルーシュとスザクはどこへ行ったのかと周りを見渡しても、ただでさえ休日で多い人波。
パニックに陥っている中で見つかるはずもなく。
ジノはただ為すすべもなく、その場に佇んでいた。




スザクお持ち帰り。
ほのぼので行こうと思っていたのにやっぱり痛くなってきます。
続けてしまっていいものか悩みますorz


to be continu...