何度携帯にかけても繋がらない。
ジノは苛立ちながら政庁へと戻った。
政庁の中は黒の騎士団が現れたことと、声明が発表されたことでドタバタとしていた。
アーニャがいつものやる気の無い表情とは違い、睨み付けるように見ているモニターには仮面の男。
思わずジノも足を止めてモニターをにらみつけた。
こいつさえ今日騒動を起こさなければスザクとはぐれも、見つからなくて未だに焦る必要も無いのに、と。
仮面の男―ゼロ―はす、と手を横に薙ぐと声高らかに宣言した。
『日本人達よ!喜ぶが良い!亡き枢木首相の忘れ形見、最後の姫、枢木スザクを我々が保護した!我々の巫女だ!』
ゼロの後ろに気を失っているのか、顔を隠した女性に抱きかかえられているのは確かにスザクで。
ジノは思わずモニターへと詰め寄った。
ゼロは尚も続ける。
『ブリタニアに酷い仕打ちを受けたのだろう、彼女は記憶も体の成長すら止めてしまっている。私は許さない』
静かなゼロの声がジノの心を激しく揺さぶる。
心の中に渦巻くのは激しい怒りの炎。
『子供にすら容赦の無いブリタニアから日本を独立させるのだ!!』
「…ふざけるな!…何が独立だ!スザクを道具に使って・・・!」
だん、と机を殴りつけると、アーニャも同意見なのかジノの隣にすっと立った。
「…返してもらわなきゃ。スザク」
「あぁ…お仕置きの時間だな」
ナイトオブラウンズを怒らせた報い、しっかりと受けてもらおう。
ジノは口元を小さく笑みの形に歪ませると作戦会議室へとマントを翻して足を踏み入れた。
目を開いて真っ先に目に入ったのは天井の白。
ぐるり、と周りを見渡すと殺風景な部屋で、ただ枕元に大きな熊のぬいぐるみが置いてあった。
間抜けな、あどけない顔がどこかジノに似ていて、思わずぎゅ、と抱き締める。
スザクには何があったのか全く理解できていなかった。
動物園にいた。ルルーシュに抱きかかえられて…
気を失ったのだろう、スザクの記憶はそこで途切れていた。
「…帰らなきゃ。ジノが心配してる」
むく、と体を起こすとずっしりとした身の重さに眉を寄せた。
自分の体に目をやると、鮮やかな真っ赤な着物に身を包んでいて。
重さはこの着物のせいか、と察して羽織を脱ぎ捨てた。
振袖はそれでも重いのだけれど、襦袢だけになるわけにはいかないのでそのままにしてぬいぐるみを抱いた。
「…ジノに会いに行く。それまで、傍にいてね」
無表情で呟くようにぬいぐるみに話しかけると、スザクは扉に向かい合った。
必ずジノに会う、と意を決するとスザクは扉を開いた。
見張りを手刀で素早く倒してぱたぱたと出口を求めて彷徨う。
だが、大人ばかりの艦内。
スザクの逃走はあっという間に捕まった事で失敗に終わった。
それどころか、今度は部屋の中に見張りまで付けられてしまって、逃げ出す隙すらなくなってしまって。
スザクは俯き、唇を噛んだ。
背が高く、体格のがっちりとした男がスザクの目の前に座る。
男に真っ直ぐ見られると自然とスザクは正座をして、ぴんと背を伸ばしていた。
何故そんな行動を取るのか、理解できなかったが、しなければならない気がしたのだ。
その様子を見て、男はフッ、と笑った。
「なるほど。貴方は確かにスザク君のようだ。記憶を失くしても体が覚えている、といったところか」
無表情のまま、スザクは目を細めて男を見上げる。
「まず、おかえり、と言おう。私は藤堂。貴方の師だ」
「藤堂…さん」
声に出してみた名前は酷く耳に馴染んで。
スザクは目を丸くした。
「君はあるべき場所に帰ってきたんだ。枢木の巫女、枢木の忘れ形見、皇家の血を引き継ぐ姫、斎の宮」
並べ立てられた呼び名の全てに聞き覚えがある気がして、スザクはゆるく首を振った。
どの名前も酷く重たくて。
重さで潰されそうだ、と頭の片隅で感じながら、スザクはずきり、と痛む頭に手をやった。
思い出さなきゃいけない気もする。
思い出しちゃいけない気もする。
頭の中が書き混ぜられるような感覚に無意識に髪をかき混ぜた。
「君は全て忘れたことで捨てたものがあるだろう。けれど、それは思い出さなければいけない。それが君の…」
藤堂の声が酷く遠く、けれど、強く耳を打って。
「君の業だ。ちゃんと背負いなさい。逃げるな!」
スザクの肩がびくっと跳ねる。
ぼやり、と視界が揺れると、スザクはふ、と意識を失った。
誰かと一緒に遊んでいた。
大切な友達だった。
僕と、ルルーシュと栗色のふわふわの髪の長い女の子。
薄暗い蔵に布団を敷いて、女の子を間に挟んでいつも川の字で寝ていた。
『スザクさん、ずっと一緒ですよね。消えてしまいそうな気がして』
ルルーシュに小さな声で話しかけた女の子は、不安げで。
『大丈夫。僕とスザクは婚約したんだから。ずっと一緒だよ?』
安心させるように言ったのであろうその言葉は、スザクには重かった。
嘘つきだ。
親同士が決めた結婚なんて関係ないって言ってくれたのに。
スザクは、布団を被って瞳を閉じた。
「目を覚ましたか。スザク」
再び目を覚ました時、ルルーシュがベッドに腰をかけていた。
寝ぼけた瞳でルルーシュを見上げると、優しく髪を撫でてくれて。
「…るる…しゅ…」
「大丈夫、怖くないからな」
ちゅ、と額に口付けられて、スザクの瞼から涙が溢れた。
「大丈夫、俺がスザクを守るから。婚約者だからな」
婚約者という言葉を聞いた瞬間スザクが嫌々と首を振った。
ばたばたと暴れる体をルルーシュはきつく押さえ込むように抱き締めた。
泣き喚きながら必死に否定と謝罪を繰り返すその様子は痛々しくて、必死に抱き締める。
「大丈夫だ。誰もスザクを責めたりしない。俺がお前を守るから!」
「あぁするしかなかった!イヤだ!離して!!ジノ、ジノぉっ!!」
必死にジノを呼ぶスザクに思わずギリ、と唇を噛み締める。
俺ではダメだというのか、スザク。
疲れたのかすっかり放心して涙を流し続けるスザクの身をかき抱く。
そのままルルーシュは眉間に皺を寄せて、苦しそうに声を押し殺して泣いた。
『ゼロ、敵が来ました。どうやら単独行動のようで』
通信に眉を寄せると、スザクをベッドに寝かせて仮面を被る。
「状況は?」
『単独行動のようですが…ナイトメア2機。トリスタンとモルドレッドです!』
「分かった。すぐに行く」
ゼロは通信を切ると、スザクを見つめた。
「お迎えのようだよ、スザク。返すつもりはないが…」
そろそろ真実が見えてきました。
うちのルルーシュはスザクが大好きなんです。
スザクは…お楽しみってことで
to be continu...