海から顔を出した戦艦を視界に入れるとアーニャはすっと瞳を伏せた。
「ジノ…いい?」
「あぁ、ど派手に頼む」
了解を得ると、アーニャはす、と瞳を細めて4連ハドロン砲を艦に向かって放った。
情報によると敵は潜水艦を持っていると聞く。
海に潜られては敵わない。だから先にエンジン部を破壊する。
「んじゃ、行きますか…!!」
ジノは嬉々とするとフォートレスモードに変形させ、一気に戦艦との間合いを詰めた。
砲が発射されても、ジノにとってはただのおもちゃのようなもので。
「スザクを…返せ!!」
ドンッ!と音を立てて戦艦を破壊していく。
スザクがどこにいるのか分からない状況で、苛立ちばかりが募る。
紅蓮可翔式が発艦したのを確認するが、上手くアーニャが援護に入って思わずほっとする。
今はアレに構っている時間は無い。
ジノはトリスタンをロックするとコックピットから飛び降りた。
エンジン部を破壊している以上、浸水しているかもしれない。その前にスザクを。
「ゼロ!無理です!潜水艇起動できません!」
「船の方も被害甚大!一部浸水が!!」
次々に伝えられる被害状況にゼロは黙り込む。
頭の中では次々に選択肢が生まれるも、いずれもこの状況を打破するには足りなくて。
「枢木スザクを盾にするしかない。彼女をここへ」
黙っていると、藤堂が代わりに支持を下した。
「それがっ…部屋にいないんですっ」
「何をしている!!探せ!!」
「人員を割かないで下さい。私が行きます」
神楽耶が強く頷いてブリッジから駆けていく。
ゼロは仮面の下で、スザクを道具に使うことが回避できたことを静かに安堵していた。
スザクは初めての艦内を黒の騎士団を昏倒させながらさまよっていた。
といっても、戦闘中のためか、廊下には人が少なく、皆がブリッジか機械室に篭っているような状況だ。
大した怪我も無く進んでいた。
けれど、問題の出口がどちらか分からない。
振袖を振り乱しながら走っていた。
「戦闘…って言うことは…ジノが来てる、かも…!」
必死に走るが、揺れで上手く前に進めず何度も転ぶ。
スザクの手や膝には打ち身や擦り傷ができていた。
「ジノに…会うんだ」
きゅ、と唇を噛み締めると、肩をぽん、と叩かれた。
「ジノ!?」
振り返ると、黒い髪のあどけない少女がにっこり微笑んでいた。
「見つけましたわ。逃げないで下さい。何もしませんから」
優しげな風貌にスザクの頭の中にまた新しい映像が甦る。
スザクの後をいつも『姉さま、スザク姉さま』とついて来ていた幼い少女。
姉妹のように親しかったあの少女に面影がよく似ている。
「か…ぐや…?」
「まぁ、思い出してくれたんですか?嬉しいですっ。さぁ、ゼロ様の元へ参りましょう?」
神楽耶にぎゅう、と抱き締められると、酷くなる頭痛にぎゅう、と目を閉じる。
このまま意識を手放してはだめだ、と必死に自分の腕に爪を立てて意識をとどめる。
今意識を手放しては、これから先ずっとジノに会えない気がした。
「はな…て…離せっ!!」
どんっ、と神楽耶を突き飛ばす。反動で後ろにひっくり返る。
しりもちをついている神楽耶を見ると、急いで立ち上がり、走り出す。
後ろで焦ったような神楽耶の声が聞こえたけれど気にしない。
行き止まりの角を曲がった瞬間何かにぶつかり、慌てて距離をとった。
「スザク!?」
名前を呼ばれて顔を上げると、ずっと探していたジノで、思わずほっと息をつく。
その瞬間、ぐいっと後ろから抱き締められた。
振り返ると、厳しい顔をした神楽耶がいて。
ジノの瞳がすっと冷たい色に染まった。
「…スザクを返してもらおうか、お嬢さん」
「なりません。スザク姉様は私達の大事な方です」
「力ずくで返してもらうことになるが…あんまり弱いものいじめは嫌いなんだけどな」
やれやれ、と肩を竦めるジノはいつも通りなのに、どこか怖くて、スザクは黙り込んだ。
怖いのは神楽耶も同じだったらしく、抱き締めている手がびくり、と震えた。
けれど、スザクの首に銃を突きつけて諦めさせようとするその様子は威厳のようなものを保っていて。
「なんでそんなにスザクに拘る?」
「それはこちらの台詞です。貴方がスザク姉様に固執する理由が分かりません!」
「スザクは俺の大事な家族だからだ!」
「あら、何を言ってますの?スザク姉様はゼロ様の婚約者ですもの。ゼロ様の家族ですわ」
ふふん、とバカにするように言った神楽耶は自慢げで。
けれど、スザクを目の前にするジノには、彼女とは対照的なほど、みるみる顔色を悪くするスザクから目が離せなかった。
嫌々と首を振って、ガタガタと震えて、目を見開いて。
「い…や…いやだぁああああああっ!!」
かんしゃくを起こしたようにじたばたと暴れ、神楽耶の髪を引っ張る。
神楽耶の抱く手が緩んだ瞬間、腕から零れ落ちたスザクをジノが抱え上げる。
ついでに、神楽耶の体を軽く突き飛ばすとそのまま泣きじゃくるスザクを抱いてトリスタンの元へと駆け出した。
「くそっ、スザク君はまだ見つからないのか!」
苛立つ藤堂の元にスザクが奪取されたとの報告が入る。
思わずゼロは壁を殴りつけた。
そんなに俺を拒否するというのか、という怒りすら湧き上がって。
小さく深呼吸するとぴっと背筋を伸ばした。
「とりあえず今は逃走するのが先だ。どうせあちらはエナジーフィラー切れでスザクを取り戻せば退くだろう。それまで耐えろ!」
「スザク君はどうする?」
「大丈夫だ。あちらから帰ってくるさ。記憶を取り戻しかけているのだからな」
そうだろう。スザク。私の可愛い姫。
ルルーシュは仮面の下で薄く笑った。
スザクを奪取した後、政庁へと帰ってきたジノとアーニャは安心したのか眠ってしまったスザクをスザクの部屋のベッドに寝かせた。
悪夢を見ているのか、何度も魘されていて、傍を離れることなんてできなかった。
眠っているスザクの頬を手の甲で撫でるとこつん、と額を合わせる。
仄かに伝わるスザクの温もり。思わず笑みが浮かぶ。
「おかえり、スザク」
小さく言うと、思わず笑みが浮かんだ。
奪還作戦です。
スザクのお母さんは皇族、という設定でお願いします;
戦闘を文章で表すって、難しい…デスネ…
to be continu...