重い告白に思わずジノの喉が鳴る。
ジノの両親は健在だ。
スザクは敗戦国の子供だったから、身寄りがないであろう、ということも想像はついていた。
けれど、10歳の子供が、父親を殺すなんて。
しかも、本意ではなかったなんて。
「友達のままだったら…良かったのに。そうだったら、私は…」
「友達だったら、父親を手にかけることはしなかった?」
スザクは小さく頷く。
「私なりに、守ろうとしたと思う。力が無かったとしても、全力で、アイツを守った。勘当されても絶対」
「その結果、やっぱり父親を殺したとしても?」
ぐ、とスザクが黙り込む。
ジノが小さく息をついたのを見て、スザクがびくりと肩を揺らす。
小さなスザクを追い込んだ『婚約者』という立場。
それがスザクのトラウマになっているのだろう。
けれど、それはただの…
「スザク、婚約者っていうのはただの言い分けだろう?」
きっとスザクは、その婚約者が婚約者でなかったとしても、きっと父を手にかけていただろう。
ただ、婚約者、という立場がスザクの背中を軽く押しただけで。
「ジノ…?」
「スザクは、その相手が婚約者じゃなくても、きっと同じことをしていたよ」
スザクの心の中を見透かしたように言い当てると、スザクの瞳からはみるみるうちに涙が溢れてきた。
その小さな肩を抱き締めるように腕を回すと、スザクの体が跳ねる。
安心させるようにぽん、と背中を撫でる。
「大丈夫。スザクはスザクにできることをやっただけだ。それが、重すぎることだっただけなんだよ」
「だけど、私は人を殺して、のうのうと生きて、罰せられることも無くて」
「記憶を無くした、ていうのは十分の罰だろう?それに人なら俺だって殺してる」
だけど、と尚も言い募ろうとするスザクの涙に濡れた瞼に優しく口付ける。
「大丈夫。大事なのはこれから先、何をするか、だ」
スザクはどうしたい?と、じっと見つめるとスザクは大きな瞳から一筋の涙が零れ落ちた。



「僕は、黒の騎士団を止めたい」



婚約者―ルルーシュ―のためにも。
ナナリーのためにも。
日本を平和にするためにも。



「僕は、ナイトオブワンになって、このエリア11をもらう」



スザクの決意に思わずジノは笑みを浮かべた。
「へぇ、じゃあ俺もアーニャも蹴落とされるわけだな?」
「いくらジノでも手は抜かないよ」
キッと睨み付けてくるスザクの瞳はキラキラとしていて、あぁ、これが本当のスザクなのかと思わず笑みを浮かべた。
それを見て、何を笑ってるんだ、と頬を膨らませるスザクは何とも愛しくて。
目に入れても痛くない、というのはこういうことかな、とスザクを抱き締めた。
「スザク、これだけは覚えておけよ?何があっても俺はスザクの味方だ。スザクの騎士だからな?」
我ながら恥ずかしいことを言っているとは思いながらもジノはスザクに言い聞かせるように言う。
案の定スザクは、恥ずかしいヤツ、と視線を反らしたが、その口元は微笑んでいた。
ぎゅう、と抱き締めるとちゅ、とその頬に口付けた。
「大好きだよ、スザク」
「ロリコン?」
「お前、そういう可愛くないこと言うな」
はぁ、と溜息をつくと、くすくすとスザクが笑った。
「私もジノが大好きだよ。私の初恋だ」
さらり、と言われた言葉に思わずぱっと笑みが浮かぶ。
「スザクぅ!!!」
「うっとおしい!くっつくな!!」
スザクの性格はちょっぴりキツクなっていたが、スザクの告白に感極まっていたジノには関係ないことだった。



問題は婚約者のことだった。
ブリタニア人だということだったから、きっと婚約は自然破棄、ということになるのだろうけれど。
黒の騎士団の船であったイレブンの少女は『ゼロの婚約者』といった。
それをスザクの話と掛け合わせると、自然とゼロはブリタニア人ということになるんじゃないか?
そして、頭の中に浮かんだ仮説に、まさかなぁ…と肩を竦める。
ジノは顎に手をやりながら、ふむ、と考え込んだ。
「なぁ、スザク。婚約者って誰なんだ?」
「あー…隠してても仕方ない…か…ルルーシュだよ」
あぁ、やっぱり。
ジノはがっくりと肩を落とした。
初めて会った時から感じていた嫌な感じ、の意味が今理解できた。
そりゃ、婚約者の隣―しかも同棲に近い状況―に知らない男が居れば敵意も剥き出しにするよな。
目の前で吹っ切れたようにケロッとしているスザクを見て、思わず苦笑した。
「どころでさ、実際の年はいくつになるんだ?」
「17。だから、子供扱いはするなよ?」
さらっと言われた言葉に、思わず無理だ、と思ってしまった。
外見は10歳で、今まで10歳の子供だと思って接していたのに、いきなり18歳だと、レディだと言われても。
きっと今までのスザクと同じ扱い方をしてしまうのだろうな、と思った。



「ところでスザク、街、どうする?行くなら服、選ぶけど」
今まで通り自然に発した一言は、スザクにうろんげな瞳で見られて、思わず口をつぐむ。
「ジノ、そういうの、セクハラって言うって知っていたか?」
いきなり大人になってしまったレディに、ジノはこれからの気苦労を考えると肩を落とした。
着替える時もやっぱり部屋から追い出されて。
次に姿を現したスザクはボーイッシュな格好で。
今まであんなに可愛くしていた―ジノの趣味で―のに、と思わず涙。
明らかに落胆したような様子を見ると、スザクはくすくすと笑う。
それは今までたまに見せていた無邪気な笑みではなくて、花が綻ぶ様な、そんな笑顔で。
ジノの頬がかっと赤くなって、視線を思い切り反らした。
今からこれでは、もしこれから大きくなった場合、どうなってしまうんだろう、と将来を不安に思うのだった。

やっとジノスザ要素が…
何だか、あんまり進んでなくてすみません。
これからジノの女難が始まるのですよ


to be continu...