ヴァインベルグ家の居候、枢木スザク嬢はそれはそれはもう、保護者が驚くほど。
驚くどころか困ってしまうほど、綺麗に、可愛らしく、急激に成長してしまいました。
スザクの記憶が戻って早一年、黒の騎士団はあの一件以降力を温存するかのように行動を沈静化し、尻尾を掴ませもしなくなった。
そして、ルルーシュもまた、スザクの前に姿を現すことは無かった。
こと一年で、スザクの体は今まで止まっていた成長を急激に開始し、それは思春期の成長期に似た早さだった。
145センチ程度しか無かった身長はアーニャを追い越してしまって、もうそろそろ160になるんじゃないか、といった所で。
つい先日も女らしい体つきになったとジノが言うと―褒めたつもりだったのだが―セクハラだと睨み付けられた。
アーニャは急激に女の人へと変わっていくスザクの変化が楽しいのか、ここ1年間のブログはスザクの成長日記と化していて。
それを嫌がってはいないのか、スザクも苦笑しながら写真に撮られていた。
最近は買い物にも付き合せてはくれなくて、ジノは置いてけぼりを食らうことが多く。
1年前のあの大告白はなんだったんだ、と肩を落とした。
「もしかして、好きは好きでもLikeだったとかか!?でも初恋ってっ!!」
「何バカなこと言ってるんだよ、ジノ」
一人で悶絶していると、後ろから書類の束でパシッと叩かれて。
振り返ると呆れ顔のスザク。
「またズボンはいてる。スカートの方が俺は好きだって言ってるのに」
「冗談。何でジノの趣味で服を選ばなきゃいけないんだよ。私はズボンの方が好きなんだ」
書類をジノに押し付けると、帰っていこうとするスザクをぎゅ、と抱き締める。
こうでもしないと相手にしてくれないからなのだが、周りの男供がジノに恨めしそうな視線を投げかけてきた。
尤もジノはそんな視線など気にしないのだが。
この1年で随分敵が増えたものだな、と思わず肩を竦めた。
まだ幼さの残る、けれど、大人びた表情をするようになった顔がジノをじっと見上げてきた。
どうやら、さっさと用件を言えということらしい。
「えーっと、さ。スザクって18になったんだっけ?でさ、今更だけど、学校通ってみるのはどうかと思ってさ」
ジノの提案にピクリ、とスザクは反応した。
どうやら興味があるらしい。
「けど、今更通うって言ったって勉強なんてほとんど出来ないし」
「大丈夫だって。私も一緒に通うから。っていうか、もう決定だからな!」
無邪気に笑いながら肩を組んでくるジノにスザクは小さく溜息をついた。
それじゃ意見を聞く必要ないじゃないか、と。
心もとないと思うほど短いスカートにスザクは眉を潜めた。
初登校は今からドキドキとするのだけれど、しっかり用意した鞄を抱えて、意を決してドアを開ける。
そこには同じく制服を着たジノがいて。
シンプルな制服はジノの背の高さを更に際立たせていて、思わず目を丸くした。
「おはよ。スザク…スザク?」
ぽかん、としているスザクの目前をジノの手が横切ると、正気を取り戻したスザクが恥ずかしそうに咳払いする。
「な、なんでもない。おはよう、ジノ。早く行こう?」
遅刻はイヤだよ、と付け加えて学校へ向かって歩きだした。
「今日からクラスメイトとして二人増えることになった。ジノ・ヴァインベルグ卿と枢木スザク卿だ」
紹介された瞬間に、男女共に生徒達から歓声があがる。
ジノはナイトオブラウンズとしてもヴァインベルグ家の人間としても有名であったし。
それを抜きにしても同学年の男子達とは比べ物にならない背の高さと綺麗な顔立ちは女生徒達の目を引いて。
スザクはスザクで、童顔で可愛らしい顔立ちにくりくりとした瞳。
ただ、イレブンだと言う事がネックではあったけれど、その健康的な肉体美は男子生徒を騒がせるには十分で。
俄かにざわめいた教室に担任のヴィレッタの注意する声が響いた。
「それじゃあ、席は…ヴァインベルグ卿は廊下側の…シャーリーの隣の席へ」
廊下側の空いた席を示すように指差すと、隣のシャーリーが「こっちです」と愛想良く手を振った。
はいはい、と返事をすると、ジノはシャーリーと楽しそうに会話を2,3交わして席へとつく。
その様子に思わず胸にムカつく物を感じて、スザクが眉を潜めると、ヴィレッタが窓際の席を指差した。
「枢木卿はあちらへ。ルルーシュ」
耳についた名前に思わずスザクはピクリと身を潜めた。
それはジノも同じで。
「先生。俺、窓際の方が…」
「ヴァインベルグ卿、同性は隣同士にならないように配慮しているのです。ご理解下さい」
言い終わる前に言われてしまうと、ジノは不満げにしながらも椅子に深く腰をかけた。
その瞳はルルーシュを冷たく見ていたが。
ルルーシュは、スザクに向かってにっこりと笑みを浮かべた。
「久しぶりだな、スザク」
「うん、久しぶり。元気そうで、良かったよ」
まぁ、座れ、と席へ付くことを促されるとスザクは静かに腰をかけた。
心臓は、想定外の出来事にバクバクと煩い位になっていたけれど、ぐ、と俯いて平静を装う。
ちらり、と隣を伺うと、視線を察したかのように視線が交わり、スザクは慌てて目を伏せた。
「何?わからないところでもあるのか?」
ルルーシュは声を潜めて呆れたように言いながらスザクのテキストに綺麗な細い指を這わせていく。
その様子は1年前のあの出来事なんて夢だったかのように優しくて。
緊張してこもっていた肩の力はいつの間にか抜けて、ルルーシュの教えてくれる教科書へと思考は持っていかれていた。
その様子を面白くなさそうに見ていたのはジノだった。
幼い頃から家庭教師がついていたジノにとって学校の授業なんて簡単すぎるものだったし。
肩肘をつきながらジノはルルーシュとスザクを睨み付けるように見ていた。
「ねぇねぇ、ルルーシュとスザクちゃんって知り合いなのかな?」
声を潜めて話しかけてきたシャーリーに笑みを浮かべながら応対する。
その様子をちらりと見てしまったスザクが眉を寄せているなんてこと知らずに。
昼休みになり、スザクはジノに話しかける気がしなくて、作ってきたお弁当を片手に教室を飛び出した。
ジノはすっかり女生徒達に囲まれてしまっていたから、きっと追っては来ないだろう。
はぁ、と溜息をつきながら中庭へ向かう。
ルルーシュに会った時はどうしようかと思ったけれど、学校では立場など無にして付き合えそうだったし。
精神的に楽にはなったのだけれど。
足元の石を思い切り蹴飛ばして、スザクはベンチに座り込んだ。
大体ジノは皆に優しすぎなんだ。
スザクは憤りをぶつけるようにお弁当のおにぎりにかぶりついた。
「美味しそうだな。一つ貰うぞ?」
後ろからお弁当に伸ばされた手に思わずはた、と動作を止める。
おにぎりを一つ取ってかぶりつくのを見上げると、スザクは小さく首を傾げる。
もとより2人分用意していたお弁当はスザク一人で食べるには大きくて。
すとん、と遠慮なくスザクの隣に座っているのがルルーシュだと分かっているのに、何故か安心感が胸を満たす。
「美味しいな」
ぺろり、と食べ終えて、指を舐める様子に思わず笑みを零した。
「有難う、ルルーシュ。これ、手作りなんだ。美味しいって言って貰えて嬉しいよ」
「本当に美味しいからな。なぁ、スザク。学校では俺達…」
「休戦、でしょ?分かってる。ここでは幼馴染、だよね」
「あぁ、よろしくな」
呟くように言うとお互い握手を交わす。
ルルーシュは笑みを浮かべながらお弁当に再び手を伸ばした。
ルルーシュの周りの空気は柔らかくて、スザクは嫌いじゃない、と思った。
例の事件さえなければ、ルルーシュはジノと同じくらい好きだった。
ルルーシュと幼い頃のように手を繋いで教室に入った瞬間、黄色い悲鳴が教室を満たした。
その中で、ジノが痛いほどの視線を向けてきているのを感じて、ルルーシュはふ、と笑みを浮かべてみせた。
それを見てルルーシュの瞳が勝ち誇ったように細められる。
二人の関係を聞く生徒達の声にルルーシュがスザクの肩を抱く。
反射的に立ち上がった瞬間、きょとんとした生徒達の瞳がジノに注がれて。
言いたいことを全て飲み込んでどすん、と席に着いた。
「ルルーシュ君と枢木さんってどんな関係なの!?」
「幼馴染なんだ。俺が小さい頃スザクの家でお世話になってて…」
和やかに話す2人にジノは慌てて立ち上がってスザクの腕を引いて抱き締める。
どうしたの、ジノ君と不思議がって口々にされる言葉ににっこりと笑みを浮かべた。
「スザクに手を出す…」
「ジノ、重い」
ぺしっとジノの手がスザクの体から軽くあしらう様にはじかれる。
仄かに赤く色づいた手をぽかん、としながら見つめるとスザクにそっぽ向かれてしまった。
「スザク?」
スザクに弾かれた手がじん、とした痛みをジノに伝えた。
スザクちゃん、ちょっぴり大人になりました。
ジノを振り回すのが趣味です。
スザクはジノが大好きなんです。独り占めしたいんです。
ちょっぴり女になったんですw
to be continu...